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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第81話 王都入城
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 ここのトコロずっと曇り続きだった蒼穹が、今日だけは遙か宇宙の彼方まで見通せるかのような蒼に染まったお昼前。
 身を切るような、……と表現しても問題のない冷たい大気。おそらく、今日の最高気温は十度を超える事はないだろうと言う天然の冷蔵庫状態のリュティスの街を現在、包み込んで居るのは――――

 異常な熱気で有った。

 一人が大きな声を上げる事に因り広がって行く歓声。王家を言祝(ことほ)ぐ声。
 そして何より、俺自身。いや、ガリア王国王子ルイを讃える民衆の声。
 無数の人々が上げる声が重なり、唱和し、リュティスの街はまるで地軸を揺るがせるかのような歓声に支配されている。

 十二月(ウィンの月)第一週(フレイアの週)、イングの曜日。
 この日のリュティスの街は朝からお祭り騒ぎ。沿道に集まった人々は、この行列……マジャール侯爵麾下の護衛騎士団に守られた王家専用の馬車。そして、その窓から時折顔を見せる蒼髪の少年の顔を見ようと身を乗り出す。当然、其処かしこで振る舞い酒が杯を重ねられ、子供たちには菓子が配られる。この寒い冬の日、戸籍に記載された人口だけで三十万人近い人口を有するこのガリア最大の都市全体が完全に祝福ムードに彩られていた。
 もっとも、これは当然の状況。
 何故ならば、この夏にその存在が国民に知らされた王子。それも生まれると同時に隠され、王都から離れた安全な地で育った王子が、ようやく王都に帰って来る事に成ったのですから。

 但し、表向きは、そう言う事に成って居る、……と言うだけなのですけどね。

 一応、このハルケギニア世界標準仕様の馬車には絶対に存在していないサスペンションを施して有るとは言え、それでもアスファルトで舗装されている道路を進む訳ではない上に、ゴムのタイヤを履いている訳ではない車輪で有るが故に、かなり乗り心地の良くない馬車に揺られながら、更に居心地の良くない感覚。……何と言うか、影武者に過ぎない、まして、ガリア王家の血が一滴も流れていない俺が、王子のフリをして、道幅が大体二十メートルほど有るマロニエの並木道を、歓声に包まれながらヴェルサルティル宮殿に向かって進んでも本当に良いのか、と言う疑問にさいなまれつつある俺。

 そう。本当にこれだけ多くの民衆を騙すような真似をして良いのか、と言う疑問に……。

 あの日。十一月(ギューフの月)第四週(ティワズの週)、オセルの曜日。
 自らの事を名付けざられしモノだと自称している青年が起こした、各種クトゥルフの邪神召喚から生きて居る炎クトゥグアの触手召喚に至る一連の流れで、小さくはないダメージを受けた森や自然を回復させる作業から、拠点としていたサンガルの村に建てた修道院に帰り着いた時に待っていたのは……。
 十二月最初の虚無の日よりドナウ川の
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