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もしもこんなチート能力を手に入れたら・・・多分後悔するんじゃね?
十五夜 〜少年は真実を見るだろう〜
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暗闇に包まれたその部屋には、少女の少しだけ荒い息だけが木霊していた。
彼女に母はいない。いるのは厳格な父だけ。何故いないのかは教えてくれなかったが、きっともっといい子にしていれば教えてくれたのかもしれない。

いつも厳しい事ばかり言っている父は、今日はそうではない。ここ最近体調を崩しがちであったのをずっと隠していたら、今日とうとうばれてしまった。それもそうだろう。何せ熱でふらふらしていたのだから、毎日顔を合わせている父がその変化に気付かない訳がない。風邪をひいたら病院に連れて行かなきゃならないから、それで余計な手間を取らせたら父はもっと怒るかもしれない。そう思って彼女は隠していた。

父は怒らなかった。病院まで連れて行ってくれて、布団まで私を運んでくれて、そのとき一瞬何かを言いかけたけど結局やめた。今の私を見て流石に酷だと思ったのかもしれない。真実がどうであれ、彼女にとっては嬉しかった。ただ厳しいだけではないんだな、と思えたから。

ふと、自分の机の上にある自由帳に目をやる。彼女が自由なのはあの白紙のページの中だけだった。あのノートの中にいる彼女は飼いたいと願った犬を飼い、怒らない父と楽しく暮らし、友達と一緒にお祭りを回ったりしている。
でも、現実の父が嫌いなわけではない。本当に苦しくて辛いときは、父は私のいうことを聞いて甘えさせてくれた。普段は厳しいけれど、私の事を分かってくれている。だから私はあの自由帳に広がる世界の中に行きたいとは思わない。

思わないけれど・・・それでも辛い事はある。

「例えばその辛い事は、どうしても手が届かない棚の上の物が突然落ちてきて周囲に変な目で見られたり、嫌いだと思った相手が突然転んで怪我をして自分のせいにされたり、やりたくないと思ったことが何もしていないのに片付いていたり・・・虐めで殴られたり蹴られたりしたのに全く痛くなく怪我も残らないから周囲に気味悪がられて、その同級生たちが次々に事故に遭ったり転校したり・・・」

ひっ、と喉が息を吸い込んだ。
その声は彼女が発したものではない。全く知らない、でも彼女と同じ年頃の男の子の声だった。
微かに部屋の中に、嗅ぎ慣れない古紙の臭いがした。

ぎし、と床が小さく軋む。

怖い。何故誰もいない筈の場所から声が聞こえるのか。―――それとも、誰かいるのか?まさか、泥棒・・・!?
体調を崩している私では、もし泥棒に何かされても為す術がない。それに相手は子供であっても男の子。女の子であり特別鍛えている訳でもない彼女では、抵抗することさえ難しい。
咄嗟に父に助けを求めようと叫びかけたが、声が上手く出ない。対する声の主は、月の光がカーテンの隙間から差し込む彼女の部屋を静かに歩いた。都会の夜は街灯などで外が比較的明るいため、彼女は声の主のシルエットを捉え
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