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渦巻く滄海 紅き空 【上】
十三 運命論者
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すっと目を細めた。彼は緋色を帯びた左目でじっとネジを凝視する。まるでその動きを目に焼きつけるように。

「……これが絶対的な差というものだ」
崩れ落ちたヒナタを見下しながら、ネジは言い放った。彼は八卦の領域にいたヒナタの点穴を64か所突いたのだ。
しかもその術は、日向分家には本来伝えられない奥義の一つ。ヒナタの父、日向当主である日向ヒアシが宗家のみに伝える柔拳法を、分家であるネジはその天賦の才と勘だけで体得してしまったのだった。

ただでさえ心臓への一突きを受けているヒナタの身体は誰が見てもボロボロである。立つ事も出来まいと、ネジは己の勝利を確信した。

遠くなる気を奮い立たせ、ヒナタはネジを見上げる。翳む視界の中で、ネジの眼光が彼女を射抜いた。その強く冷たい眼光にヒナタは怯む。だがその瞳の奥に、彼女は悲嘆の色を感じ取った。


「ヒナタ―――――!!頑張れ――――――――!!!!」
刹那、ナルの声が闘技場に響き渡る。


その声援が耳に届いた途端、ヒナタの胸の内がじんわりとあたたかくなっていった。冷たい床を掻き毟り、少し動かすだけでも激しい痛みを伴う腕で上半身を支える。
ナルの声を耳にする度に湧いてくる勇気。常におどおどと泳がせる瞳には意思と信念が強く蘇っていく。

「ま…まっすぐ…自分の……言葉は、曲げない…!!私も…それが忍道だから…っ!」

途切れ途切れに、しかしはっきりとヒナタは宣言した。その言葉はナルがよく豪語する忍道。憧れの彼女の言葉を口にして、自分自身を奮い立たせる。床を這い蹲りながら、ヒナタは観覧席を見上げた。

いつも笑顔を向けてくれる人。優しい人。勇気をくれる人。励まされ救ってくれた人。一族以外で初めて友達になってくれた人。
そして何度酷い目に合っても涙一つ溢さない、強い人。

憧れの人の目の前でヒナタは立ち上がろうとする。痛む身体を押さえ、膝に力を込めようと必死に足掻いた。
指一本動かせないであろうその身を無理に動かす。立ち上がったヒナタの姿を眼前にし、ネジは思わず口から驚きの声を零した。
「馬鹿な……無理をすれば本当に死ぬぞ…」
満身創痍の身体で柔拳の構えをとるヒナタ。そんな彼女はあろうことか、観覧席にいる金髪少女に微笑んでみせた。その余裕のあり方にネジは憤る。

「強がっても無駄だ!…貴女は生まれながらに日向宗家という宿命を背負った。力のない自分を呪い、責め続けた…。けれど、人は変わることなど出来ない――これが運命だ」

どこか自分自身に言い聞かせるような物言いでネジは語る。何もかもを諦めた面持ちで瞳を閉じた彼の言葉を、ヒナタは息を切らしながらもはっきり否定した。

「それは違うわ、ネジ兄さん。だって…私には見えるもの……。私なんかよりずっと宗家と分家という運命の
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