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剣の丘に花は咲く 
第三章 始祖の祈祷書
プロローグ 祖父
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く中、二人はただ互いの呼吸の音だけを聞いている。
 そんな空間に、男の声が響く。



「分かった」

「……」

「約束する」

「……」

「だから……」

「ぅっ……」

「君も幸せになってくれ……」

「っ……っ……」

「俺のことを忘れて……」

「っ! つっ!!」

 男の最後の言葉を聞いた女は、俯かせていた顔を勢い良く上げると、涙に潤むその黒色の瞳を男に向けた。

「忘れませんっ」

 女は叫ぶ。
 
「忘れませんっ!」

 まるで月に向かって吠える狼のように。

「忘れてなんかあげませんっ!!!」

 敵に向かって宣戦布告するかのように。

 


 
 山びことなって女の声が山々に響く中、女は男をしっかりと見つめる。
 その目に、鉄よりも硬い意思が秘められていることを確認した男はため息をついた。 

「はぁ……なんでさ……なんで俺の周りにいる女性はこうも強いんだ……」

 苦笑いしながらも嬉しげに呟いた男は、こちらをまるで親の仇を睨みつけるかのように見つめてくる女に笑いかけると頷いた。

「そうか、君がそう望むのならそうしたらいい。元から俺にどうこう言う資格なんて無いからな」

 男は自分の頭の上に手をやると、軽く頭を掻きながら女に話しかけた。

「しかし、さっきの君はいつもとまるで別人だったな」
「っ! すみません……つい興奮してしまって……」

 女は興奮で赤く染まっていた顔を、羞恥でさらに赤く染める。
 顔を真っ赤に染めた女は、話題を変えようと必死になった。

「そう言えばっ、おばあちゃんが生きていた頃は、おじいちゃんによく似ているって言われてました……」
「おじいちゃんに?」
「ええ……戦争で亡くなったそうですが、海軍の少尉だったそうですよ」
「少尉か、それはすごいな」
「しかもゼロ戦のパイロットだったそうです」
「ゼロ戦……」
「ええ、凄腕だったって、おばあちゃんが言ってました」
 
 上手く話題が逸れたことにホッとした女は、嬉々として祖父の話を続ける。
 静かな夜の中二人の話し声が響く、女が祖母から聞いた祖父の話しを。
 話しが終わった時が、男が去る時だと予感しているから……しかし、次第に話題がなくなっていき、そしてついに女の祖父が死んだと思われる時の話しまで進んでしまった。

「……そうしておじいちゃんに助けられた部下の人が後ろを振り返ったら、後ろにいたはずのおじいちゃんが乗っていた飛行機がいなくなっていたんだそうです……」
「そうか……そう言えばおじいさんの名前は何て言うんだ?」

 男に尋ねられた女は、満天の星空を仰ぎ見ると、昔を思い出すかのように目を瞑り、男に囁くように答え
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