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ローリング=マイストーン
第一章
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第一章

                ローリング=マイストーン
 朝までかかった馬鹿げた仕事の帰りだった。俺は疲れ果てた身体を公園のベンチの上に座らせていた。
「ったくよお」
 仕事が終わっての一杯はコンビニで買ったリキュールだ。俺はすきっ腹にそれを流し込みながら不満を吐き散らしていた。
「仕事があるんなら早く言えよ」
 言われたのは帰ろうとしたその時だった。上司に急に呼び止められたのだ。
「済まないがね」
「今からですか!?」
「ああ、急な仕事でね」
「急なって」
 職場の時計はもう九時を回っていた。この日も残業だった。毎日毎日残業で嫌になってくる。朝の八時から夜の九時までだ。次の日になることなんてザラだ。終電で帰るのもそのまま会社に泊まり込むのも日常茶飯事だ。どうしてこんなに馬鹿みたいに仕事があるのかいい加減聞きたくなる程だ。それで残業手当は雀の涙だから話にならない。
「やってくれないか」
「もう九時ですよ」
「君しか頼めないんだよ」
 上司も引き下がらなかった。向こうも安サラリーの中間管理職だ。気絶しそうになる程仕事を抱えているのはお互い様だ。
「だから、さ」
「他にはいないんですか?」
 憮然として職場を見回す。ありふれたオフィスだ。パソコンがあって机や椅子が並んで置かれている。そうした普通のオフィスだった。馬鹿みたいに仕事がある以外は本当に普通の職場だ。
 見回して俺は心の中で舌打ちした。誰もいないからだ。
「いないんだよ、それが」
「そうですか」
「本来なら私が残るべきなんだがね」
 上司は申し訳なさそうに言った。悪いことにこれが演技じゃないってことが俺にはわかった。
「お子さんですか?」
「ああ、またな」
 上司はバツの悪い顔をして答えた。
「急にな、具合が悪いって」
「そうですか」
 これも本当のことだ。身体の弱い子供を持つ親は気が気ではない。上司もそうであったのだ。
「命に別状とかはそんなのはないらしいが」
「わかりました。じゃあ引き受けますよ」
「悪いな、この埋め合わせはするから」
「いや、いいですよ」
 本当に誰も残っていなかったから仕方がない。内心は嫌だったがそれでも引き受けないわけにはいかなかった。こうして俺はまた仕事をすることになった。
「頼むよ」
「はい」
 上司に仕事を渡される。パソコンの前に座ってデータを打ち込んでいく。そのまま一人でずっと仕事に没頭したそれで終わったのが今さっきだったということだ。
 仕事が終わったら窓には朝日が差し込めていた。爽やかな朝だ。
 だがそれを見ても嬉しくとも何ともない。徹夜で仕事をした人間に必要なのは休みだ。こんな爽やかな朝も嬉しくとも何ともない。俺は仕事の後片付けを済ませるとさっさと職場を後にした。戸締りを
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