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親子
第六章
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「実は旦那様と奥様にはお子さんがおられず」
「僕は父っちゃんと母っちゃんの子供として育てられたんだね」
「駆け落ちの相手に先立たれた慎二郎様はお一人ではどうにかなったのですが」
 だが幼い、まだ赤子の慎太郎を育てながら生きることは無理だった、男手一つでは赤子を育てられる余裕は出稼ぎの彼には無理だったのだ。
 それでだ、実家に戻ってだというのだ。
「それで一旦ここに戻られて」
「僕を父っちゃんと母っちゃんに預けたんだ」
「旦那様と奥様はそのことを快く認めて下さいました、ですが」
「ですが?」
「お二人はその時慎二郎様に店に戻る様にお話したんです」
 慎二郎、彼の父を引き止めたというのだ。
「それも強く、ですが慎二郎様は」
「その引き止めを聞かなかったんだね」
「一度出た者がどうして戻れるかと仰いまして」
 それでだというのだ。
「今度は東北の方の炭鉱に行かれまして」
「今はどうしてるのかな」
「お亡くなりになりました」
 小平は顔を俯けさせた、そのうえでの言葉だった。
「結核になられて十年前に知らせがありました」
「結核に」
「はい」
 結核はまさに死の病であった、それにかかってだというのだ。
「今はもう」
「そうなんだ」
「このことは内密にしていましたが」
「いや、僕もね」
 慎太郎はここで小平に浄瑠璃の帰りで老人と会い話を聞いたことを話した、小平はその話を聞いてこう言った。
「そうですか、そこからでしたか」
「それでまさかと思ったんだけれど」
「そこからわかるというのも」
 それもだとだ、あらためて言う小平だった。
「運命ですね」
「そうなるんだね」
「はい、それでなのですが」
「うん、僕は父っちゃんと母っちゃんの本当の子供ではないんだね」
「いえ、それは違います」
 小平の言葉が強くなった、その目の色も。
 そのうえでだ、彼は慎太郎にこう言うのだった。
「慎太郎様は紛れもなく旦那様と奥様のお子様です」
「それは僕以外に子供がいないからかな」
 彼は一人っ子だ、少なくとも今まではそう信じていた。
「だからかな」
「違います、仮に旦那様と奥様に他にお子様がおられましても」
「僕は父っちゃんと母っちゃんの子供なのかな」
「そうです」
 紛れもなくだ、そうだというのだ。
「このことはご安心下さい」
「そうなるのかな」
「そうです」
 小平はまた強い声で言った。
「紛れもなく」
「けれどだよ」
 慎太郎はその小平に対して怪訝な顔で返した。
「僕は二人にとっては甥だよね」
「慎二郎さんのお子さんですから」
「じゃあ子供じゃないじゃないか」
 二人のだというのだ。
「どう考えても」
「いえ、違います」
 小平はあくまでこう言うのだった。
「慎太郎様
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