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悲しみのヴァージンロード
第四章
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第四章

 彼女の方から。俺にこんなことを言ってきた。
「よかったですけれど」
「何だよ、何だってんだ?」
「今度の土曜ですけれど」
「ドライブかい?」
「車。ありますよね」
「ああ、あるさ」
 それこそ靴みたいなもんだ。とはいっても俺はバイクの方が好きでもっぱらそれに乗って走り回ってる。それでこの時もだった。
 笑ってだ。こう彼女に言ってやった。
「バイクもあるぜ。どうだい?」
「バイクですか」
「ああ、ハーレーな」
 俺がコツコツと金を貯めて買った。俺の自慢のバイクだ。
 それにどうかと誘うと。彼女は。
 少し躊躇してから。それからだ。俺に言ってきた。
「ハーレー。実は」
「知ってるよな、バイクの」
「乗るとすればはじめてです」
 そうなると。俺に答えてきた。
「ですから」
「へえ、そうなのか」
「はい、バイク自体が」
「おいおい、バイクに乗ったことないのかよ」
 これは俺には驚くべきことだった。何しろ。
 アメリカは車だけじゃない。バイクだって人の数より多いかも知れない位ある。それでカレッジに通う歳になって乗ったことがないっていうのは。
 信じられなかった。有り得ないと思った。けれどだ。
 考えてみればお嬢様だ。それならと思いなおして。こう彼女に言ってやった。
「それならな」
「それならですか」
「余計にな。乗ってみるか?」
「バイクに」
「ああ、ハーレーにな」
 まさにそれにだ。乗るかどうか誘った。
 するとだ。彼女は。
 また考える顔になって。それからだった。
 俺に答えてきた。その返事は。
「御願いします」
「いいんだな」
「はい、よかったらですが」
「悪い筈ないだろ」
 バイク屋の息子として。断る理由はなかった。それでだ。
 その土曜日に彼女を後ろに乗せてあちこちを走り回った。特に海に行った。
 その海辺の白い砂浜から青い海を見ながら。俺は言ってやった。
「なあ」
「なあ?」
「あんたの左手な」
 俺はちゃんと見ていた。その左手を。
 それでだ。こう彼女に言った。
「指輪な」
「これは」
「薬指のそれ、やっぱりな」
「すいません、実は」
「あれか。カレッジを卒業したらだよな」
「はい・・・・・・」
 俺の言葉通りだった。その俺の横で海を見ながら。
 こくりと頷いてきた。その通りだった。
「婚約者と」
「だよな。お嬢様だからな」
「隠すつもりはなかったですけれど」
「いいさ、同じだからさ」
「同じ?」
「俺も同じなんだよ」
 自然とだ。俺も俯いていた。その俯きの中で。
 俺は言った。項垂れたまま。
「結婚したら幼馴染みとな」
「そうですか」
「だから。最後の最後まではいけないよな」
「そうですね。お互いに」

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