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裏どおりの天使達
第二章
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第二章

「これ。受けない?」
「そうだな」
 そしてこいつの言葉に頷いた。
「受けてみるか。ちょっとな」
「チャンスは幾らでもあるわ」
 また微笑んで言ってきた。
「だからね。また受けよう」
「そうするか。じゃあとりあえずな」
「どうするの?」
「歌えよ」
 微笑んで言ってやった。
「俺もギター弾くからよ。いいな」
「そうね。歌いましょう」
 俺の言葉に乗ってくれた。静かに微笑んで言ってくれた。
「街で。歌って」
「そうしてこの街でずっと生きてるしな」
「ええ」
 所謂ストリートミュージシャンってやつだ。ここに出て来てずっと二人でそれで暮らしてる。暮らしはぼろぼろの鼠が出て来るアパートでとりあえず安くて腹がたまるものばかり食ってる。その中で生きている俺達だ・
「歌でね」
「歌、何にするんだ?」
 ギターを出してその弦を弾きながら尋ねた。顔を向けて。
「それで。何を歌うんだ?」
「夜だし。静かだし」
 まずは周りを見て言ってきた。
「やっぱり悲しいしね」
「そうだな。そんな時には何を歌うんだ?」
「レクイエムなんてどうかしら」
 言ってきたのはそれだった。レクイエムだった。
「それでどうかしら」
「レクイエムか」
 俺はそれを聞いて少し考える顔になった。沈んでる時にそんな歌かとまず思ったがそれはすぐに変わった。そうしてそのレクイエムを奏でだした。
「いいんじゃねえのか?」
「それでいいのね」
「ああ、いい」
 俺は頷いてやった。これで決まりだった。
「じゃあ奏でるな。いいな」
「ええ。それじゃあ」
 俺のギターに合わせて歌いはじめた。静かに夜の中で。
 雨が少しずつ降ってきてその灯りが街の水銀灯の光を反射させて柔らかに光る。そこにこいつの顔が煙っていた。こんな街でもこんなに朧な風景があるのかってさえ思った。
 俺はその中でぽつりと呟いた。ギターを奏でながら。
「悲しいけれどよ」
「どうしたの?」
「静かだな」
 こう呟いた。
「後に引くつもりもねえし運命なんて信じないさ」
 そんなことはもうなかった。とりあえずここでやってみるつもりだ。
「だからな。また受けようぜ」
「そうしましょう。チャンスはあるから」
「そうだよな。また受ければいいからな」
 俺達は二人で言ってそのうえでレクイエムを奏でて歌った。摩天楼の裏通りで。静かな夜の街には雨が降ってきて俺達の音楽も消しかねなかった。けれどそれでも俺達は歌った。悲しくてそれが仕方なくてもまだ夢があるから。俺にとってこいつは天使だった。そのことに気付いたような気がしたけれど今は黙って。そのうえで歌を聴いていた。俺の奏でるギターで歌うこいつの歌を。裏町のこの冷たい石の床の上で聴いていた。


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