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剣の丘に花は咲く 
第十章 イーヴァルディの勇者
第四話 決断
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室に残った士郎は、大きく溜め息を吐くと天井を仰ぎ。

「すまない……な」

 ポツリと声を零した。










 士郎の部屋から出て行った女性陣は寮塔の外、大きな木を囲むようにして立っていた。
 空から振り注ぐ二つの月の光も、大きな木の枝葉がその明かりを遮り、彼女たちの姿を隠していた。だが、例え枝葉が光を遮らなくとも、彼女たちはそれぞれの顔を見ることは叶わなかっただろう。
 彼女たちは皆、気を背中を向け……互いに背を向け合って立っているからだ。

「……で、どうします?」

 冷えた夜の空気に響いたのは、その声音まで柔らかな印象を受けるカトレアだった。
 カトレアの問いかけに、木を背に立つ彼女たちから声が上がる。

「今回は身を守る力が最低限必要ですので……」

 悔しげに唇を噛み締めた隙間から漏れる声を上げるシエスタに、ジェシカが不満な色を隠そうともしない声で頷く。

「わかってるわよ。あたしたちはお留守番ね」

 空に片手をかかげ、シエスタが目を細め指の隙間から見える星空を見上げる。

「……こういう時、自分に力がないことが悔やまれます」
「わたしも荒事には自信がありませんので。足でまといになりかねませんし……」

 胸に手を当て、カトレアが目を伏せ小さな声を漏らす。
 三人の女性が気落ちした声を落とすと、今まで黙っていた二人の女性が声を上げた。

「じゃあ、あたしと……」
「わたしということで」

 反対の声は上がらない。
 暫しの時が流れ、夜風が通り抜けると、サラリと絹糸が擦れるような音が響く。

「シロウさんをお願います」
「ちょっと目を離せば無茶をするからねシロウは」

 シエスタの声に、微かに笑い声を含んだジェシカが続く。

「ルイズのことも、よろしくお願いします」
「ルイズなら心配はいらないんじゃないかしら」
「そうだね。最近ぐんと強くなってるからねあの子は……色々と」

 この場にはいない、妹のことを心配する姉の言葉に、軽口を叩く。

「それでは、シロウさんをよろしくお願いしますね。キュルケちゃん。ロングビルさん」
「……ちゃんは止めてください」

 肩を落とし重い溜め息を吐くキュルケ。そんなキュルケの姿を頭に思い浮かべながら苦笑したロングビルは、一歩前に足を出すと、肩ごしに手を振りながら歩き出した。

「ま、学園の方は任せたよ」
 
 それを切っ掛けに、五人の女性たちはそれぞれバラバラに歩き出す。
 後に残ったのは、ぽつんと立ち尽くす、大きな木……だけだった。
 
 





 
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