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Two Kids Blues
第三章
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第三章

「それでも。そうだな」
 けれどこいつが本気なのを見て。俺も少し気持ちが変わった。それで言ってやった。
「御前が本気ならそれでいいんじぇねえのか?」
「いいのか」
「ああ。それにな」
 話してるうちに俺の気も変わってきた。言葉が自然に出て来た。
「あれだ。俺も御前について行くか」
「この仕事辞めるんだな」
「正直ここに一生いても何にもならないだろ」
「まあそれもあるな」
 俺の言葉に頷いてきた。どうやら街を出たいのはそれも理由らしい。
「ここにずっといてもな。本当にどうしようもない」
「掃き溜めだ、ここは」
 俺は言い捨てた。本当にここはそうだ。汚い道にはゴミや汚物が溢れているし鼠が行き来している。冗談抜きで病気が流行ってもおかしくない場所だしいる人間もその鼠と変わりない。そんなふざけた場所だ。
「ここから出るのも悪くないな」
「じゃあ賛成だな」
「そういうことにしてくれていいぜ。それじゃあ」
「ああ、二人で何処かの街に行って楽しくやろうぜ」
 こう言うと不意に立ち上がって俺のギターを手に取った。
「借りるな」
「ああ、いいぜ」
 古い、中古のギターだ。これもくすねてきたやつでそんなに愛着があるわけじゃないがそれでもずっと側に置いてる。そんなギターだ。暇ならこれで遊んでいる。
「ここがステージか」
「何なら地下鉄に行くかい?」
 また冗談めかして言ってやった。
「あの落書きだらけの地下鉄の駅でな」
「いや、今日はここでいいさ」
 自分が飲んだビールの空き缶を立てて俺に答えてきた。
「ここでな。スポットライトは」
「あれだな」
 俺は窓を指差した。丁度夜になって街のネオンが窓から入って来る。笑ってそれがスポットライトだと言ってやったってわけだ。
「あれがそうだよ」
「そうだな、あれだよな」
「まあ。ささやかなコンサートだな」
「それでもいいさ。俺はささやかに生きたいんだ、もう」
 ギターを手に考える顔で俺に言ってきた。
「せめて。悪事をせずにな」
「そうか。じゃあその前祝いに」
「歌うぜ、聴いてくれ」
「聴いてやるさ、これからの為に」
「ああ、頼むな」
 こんな話をして時間を過ごした。それからすぐにそいつは自分の金の殆どを寄付した。残したのは本当にちょっとだけの金だ。旅費程度だ。寄付した先は教会だった。
「これでいいんだな」
「ああ、これでいい」
 教会から出たところで俺にはっきりと答えてきた。晴れ晴れとした顔だった。
「これで安心して行けるさ」
「もう部屋は引き払ったよな」
「ああ」
 俺にはっきりと答えてきた。
「もうな」
「俺もだ。後はあっちに行くだけだ」
「そうだな。もうそれだけだ」
「このまま行くよな」
 道を歩きながらそいつに尋
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