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愛と哀しみのラストショー
第四章
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第四章

「いてくれないかな」
「よかったら」
 彼女は力ない声で答えた。
「ずっと一緒にいたいけれど」
「実際はそうはいかないよな」
「ええ」
「ここは避暑地だから。夏が終われば皆出て行くしな」
 それが現実だった。それは俺にもわかっている。けれどそれでも夢は見ていたいものだ。この時の俺がそうだった。一夏でもいい、夢を見ていられるのなら。それでよかった。けれど現実ってやつは俺が思っていたよりずっと冷たくて残酷なものだった。
「まあ、そうはいかないものだよな」
「そうなのよね」
 彼女は力ない声で頷いた。
「どうしてもね」
「そうだよな。本当にどうにかならないものかね」
 俺もこう思った。
「それでもさ。一緒にいようぜ」
 俺は言った。
「いいかな、それで」
「え、ええ」
 ここで俺は彼女の様子に気付くべきだった。そうすればあんなことにはならなかったからだ。今更言ってもどうしようもないことだとしてもだ。
「とりあえず夏だけはね」
 彼女は俺に顔を向けて言った。
「一緒にいましょう」
「ああ」
 こうして俺達は二人きりの夏を過ごした。他には何もいらなかった。ただ彼女だけがいればよかった。本当に二人だけで充分だった。彼女さえいれば。
 砂浜も湖も海も森も。全てが俺達と一緒だった。楽しい夏だった。そこには青春があった。
 俺は今まで青春なんて感じたこともなかった。夏になれば店を手伝い、それ以外はただ漠然として学校に通っていた。それだけだった。その味気ない日々に彼女が来てくれた。はじめて青春ってやつを知った。嬉しかった。俺はずっとこうしていたかった。
 けれど青春ってやつは夢に似ていると誰かに聞いた言葉をここで思い出すことになった。夏が終わりそうになるその時だった。彼女に家に行くと手紙がポストに入っていた。
 俺はそれはとりあえずはチラリと見ただけだった。他人の手紙なんて見るもんじゃない。余計なトラブルを抱える羽目になりかねない。だから俺はその手紙はそのまま素通りした。そして彼女の家に入った。余計なことは言わず彼女自身にその手紙のことを伝えた。
「手紙が来てるぜ」
「手紙が?」
「ああ。早く読んだ方がいいんじゃねえかな」
「まさか」
(まさか!?)
 俺は彼女の言葉に妙な感触を感じた。
(何かあるのか)
 心の中でそう思ったが口には出さなかった。そのまま手紙を取りに行く彼女を見送った。
 彼女はすぐに戻って来た。そわそわした様子が今度は沈んだ様子になっていた。それを見ると俺は何かあると思った。
「何の手紙だったんだい?」
「両親から」
 彼女は答えた。50
「この夏の後のことで」
「戻ってからのことかよ」
「御免なさい」
 彼女はそこまで言って急に俺に対して謝った。
「どう
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