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犬も食わない
第五章
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「それで御願い出来ますか」
「同居ですか」
「何をするにしても調子が出なくて」
 項垂れた声での言葉だった。
「それで」
「そうですか」
「それでいいですよね」
「はい、それじゃあ」
 こう話してそしてだった、結局二人は同居に戻った。しかし。
 するとすぐに喧嘩の日常に戻った、それでだった。
 難しい顔でだ、佐藤さんは大家さんに言った。
「あの、結局」
「元の鞘に戻ったらですよね」
「はい、またですね」
「また戻りましたよね」
 こう言うのだった。
「毎朝毎日の喧嘩に」
「やれやれです、けれど」
「お二人共でしたからね」
 旦那さんの方も奥さんの方もだというのだ。
「同居に戻ることを願い出てきましたから」
「二人共でしたら」
 それではだったのだ、大家さんにしても認めるしかなかったのだ。
 それで同居に戻るとだったのだ、難しい顔で述べた言葉だ。
 佐藤さんはその中でだ、また大家さんに言った。
「結局喧嘩する程ってことですね」
「そういうことですね」
「そうですね、それじゃあ」
「実は町の外れに凄く安い借家がありまして」
 アパートではなくそちらにだ。
「お二人にはそこに移ってもらって」
「それで、ですか」
「そこで仲良く暮らしてもらいましょう」
 喧嘩をしてもらおうというのだ、要するに。
「それでどうでしょうか」
「いいと思います、正直このアパートにおられるから問題なので」
 それでだというのだ。
「町の外れに行ってもらいましょう」
「じゃあお二人にそうお話をして」
「安い理由はあるんですけれどね」
 大家さんはこのことは言わなかった、こうした商売をしていても言えない事情があるということであろう。
 だがそのことはあえて言わずにだ、大家さんは佐藤さんに述べた。
「それでいいですよね」
「毎朝毎日の喧嘩に巻き込まれないなら」
「じゃあそういうことで」
「はい、御願いします」
 こうして篠原さん夫婦は目出度く町の外れの借家に移った、そしてそこでもだった。
 大家さんは今は呆れながらもほっとした顔でだ、佐藤さんを自分の家に招いてそのうえでこう言えたのだった。
「相変わらずですけれど」
「それでもですね」
「町の外れでのことですから」
 周りに人がいないからというのだ。
「もう幾らやってもらってもです」
「いいってことですね」
「そういうことです、喧嘩する程なら」
「人のいない場所に行ってもらうのですね」
「そういうことです」
 大家さんは微笑みさえ浮かべて佐藤さんに語る。
「いや、よかったです」
「そうですね、夫婦喧嘩はただ止めるだけじゃなく」
「他の場所でも好き勝手やってもらうやり方もあるってことで」
「そういうことですね」
「最初からそう
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