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レンズ越しのセイレーン
Report
Report9 アンティゴネ
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 エルをビズリーに託してから、ユティはエレベーターに乗り、何気なくGHSを確認した。するとメール欄で未読が1件点灯している。
 ボタンを押してメール画面を開いてみる。


〔 本社ビル 30F エントランスホールにて Dr.R 〕


 送信時刻は5分前。ユティはエレベーターのスイッチを見やった。まだギリギリで30階には着いていない。

(ちょうどいい。ワタシも彼には問い質したいことがある)

 ユティは「30」のスイッチを押し、GHSをポケットに戻した。




 エレベーターが30階で停まった。
 ドアが開く。降りてホールを見渡すと、全面ガラス張りの壁に凭れるリドウを発見できた。

 歩いて行く。高い天井にブーツの足音が反響したことで、リドウもこちらに気づいてふり返った。こんな中途半端な階から外の何を観ていたのか。カナンの地(うえ)か、景観(した)か。

 ユティはリドウと話せる距離に入るや口を開いた。

「どうしてユリウスを殺してくれなかったの。路地裏で一人きりで放置して、場所だってメールしてあげたのに」
「まだ誰を『橋』にするか正式に決まってないんだ。独断専行で社長に処分されるのは俺も御免だから。500万ぽっちじゃあ自分の命までは売れないなあ」

 リドウは大仰に肩を竦めてみせた。

 ユティは自身に落ち着くよう言い聞かせる。クロノスとの一戦で昂ぶった熱を冷まさないと、この男に付け入られる。それくらい難しい相手だと父から教わった。

「アナタは自分の命を守るためにユリウスを殺さなかった。間違いない?」
「O・K。間違ってないよ」
「じゃあ、社長に殺されないことになれば、ユリウスを殺してくれるの?」
「どーかなー? あの社長相手に小娘一人が立ち回ったところで、そんな状況は作れないと思うけど」

 せっかく人が冷静に話そうとしているのに、リドウはどこまでもユティの神経を逆撫でする。並大抵の言葉では動揺しないユティの琴線にここまで触れる。リドウのこれが不愉快なのは、父の血の遺伝だろうか。

「アナタはワタシの依頼を実行するの? しないの? しないのだったら、ワタシは今後アナタには期待しないで自分でやる」
「そうそう、それ。それを俺は聞きたかったんだよね」

 リドウは屈んで息遣いを感じる距離でユティの顔を覗き込んできた。

「『カナンの地が現れたらユリウスを殺して『橋』にする』。それが君の依頼だった。最初こそ面白いと思ったが、よく考えるとおかしいんだよね」

 何がよ、とせめても、精一杯のぶっきらぼうで問い返す。

「さっき君はユリウスの一番近くにいた。路地裏に連れ込んだ時点でズドンとヤッちまえば『橋』はその場で架かった。なのに君はクロノスと戦って、悠長に自
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