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IFのレギオス そのまたIF
糸の紡ぐ先
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たが、視線を返すように茶髪の男児がリンテンスの方を見た。涙を湛え辛そうに歪んでいたその瞳は次第に大きく開き、笑顔になった。

 それはひどく不思議な光景だった。自分自身無愛想だと自覚しているこの顔のどこに子を喜ばせる要素があるというのか。だが不思議な光景は更に続き、それは己の身に衝撃を与えた。
 男児はタバコを挟むリンテンスの手を指差したかと思うとそれを動かし、壁や天井へと縦横無尽にゆっくりと動かし始めたのだ。次第にその意味を理解し、気づけば開いた口から煙草が床に落ちていた。

「見えて、いるのか」

 酷く小さく、常人に聞こえるはずのない呟き。それがはっきりと聞こえたと言わんばかりに男児は再度笑顔を浮かべた。

「やめて、やめなさいレイフォン」

 子の母親が必死の形相で指を伸ばしたままの男児の手を叩き落す。主に対する無礼だと思ったのだろう。ただでさえつい先程まで周りにいる女中たちから責められていたのだヒステリックにもなる。この都市で部外者の女中の立場からすれば追い出されるのは死活問題だろう。整った端正な顔に浮かんだやつれが、その苦労を忍ばせた。
 今すぐにでもこの場を去ろうとメイドは子供二人を抱える。だが、そうされるわけにはいかなった。

「待て。その子供を見せろ」

 ビクリとメイドの背が震える。不始末をしたと、そう思ったのだろう。だが逆らうわけにも行かずゆっくりと子供二人をこちらへ見せる。
 恐怖が張り付いたそのメイドには目もくれず腕を上げ男児の方に指を向け静止させる。一体何をしているのはメイドたちには理解出来ずその指を見つめる。だがその男児だけは顔を動かし視線を周囲に飛ばせ、そして楽しげな笑顔を浮かべた。

(やはり、見えている)

 確かな確信が胸の内に宿った。
 男児の視線が伸ばされた指に戻ると同時、己の腕の前の空間に異常があらわれていく。メイドたちが驚愕の瞳で観るさなか、映像をコマ送りする様に空中に円錐形をした物体が現れる。それは千差万別に形を変え、そして直ぐさま空気に溶けるように消えていく。

「鋼糸……」

 メイドの一人が呟く。
 それは目に見えないほどの細さをした糸だ。この都市の者なら知らぬ者はいない。何故ならそれはこの屋敷の主が使う、己が使う武器だから。
 鍛え上げた腕が錆びるのを嫌い、鍛錬のつもりで屋敷中にその鋼糸は張り巡らされていた。それは人の声や歩の振動を拾い使い手に情報を齎していた。この鋼糸に気づくものは、誰一人いなかった。
 それを、この赤子が、

「確かに認識し、目で追っている。武芸者だな。それも特上の」

 その言葉の意味を、先程までの高度の意味を理解したメイドたちの驚愕の視線が男児を貫く。その瞳にあるのは驚愕と、畏怖と、賞賛といったところだろうか。何せ
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