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神が今を創るまで
時の神の恋

前書き [1]後書き
彼の名はクロノス。
彼は神だった。
全ての時間を支配せし神だった。
過去も未来も無く彼はいた。
彼は在るべくして在る存在だった。
彼の無い時などあり得ない。
そんな存在だった。

彼は如何なる時間でも恋慕していた。
永遠の過去に映るウルズ。
永久の現在に生きるヴェルザンディ。
永劫の未来に見えるスクルド。
彼は三姉妹を等しく恋慕していた。

彼は迷い悩んだ。
そして心をウルズに染めた。
彼は過去でウルズに愛を告げた。
ウルズはこう言った。
私は過去。
過去はいずれ薄れ消える幻。
私は消え行く運命にある存在。
貴方の中の私もいずれ消える。
消える物を相手にしないで。
と。

彼は迷い悩んだ。
そして心をヴェルザンディに染めた。
彼は今ヴェルザンディに愛を告げた。
ヴェルザンディはこう言った。
私は現在。
現在は進みも戻りもしないその瞬間。
私は一瞬にしか生きられない存在。
貴方の中の私も一瞬しか映らない。
その一瞬を相手にしないで。
と。

彼は迷い悩んだ。
心は既にスクルドに染まっていた。
しかし未来で愛を告げられなかった。
告げたその時を恐ろしく感じたから。
彼は時を恐れたことなどなかった。
彼は時と共にある存在だったから。

彼は未来を閉ざした。
未来を黒く染め上げ闇とした。
知っているはずのものを闇とした。
愛を告げたその先をも闇とした。
過去からも今からも未来を闇とした。

その上で彼はスクルドに愛を告げた。
闇の中でスクルドはこう言った。
私は未来。
未来は貴方が闇とした。
故に私は貴方の知れぬ先の存在。
貴方と歩を揃える事は叶わない。

しかし貴方の知らぬ未来では或いは。

その未来を貴方が信じるのなら。
私は未来で貴方を想い続けましょう。
と。

彼は闇を信じた。
闇を信じ過去と現在で彼女を想った。
そして彼は永劫に感じる時間を経た。
歩を揃える時はまだ来ない。

しかし彼は未来を信じ続けた。
来るべきその時に。
彼女と歩を揃え共に生きるために。
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