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深き者
第一章
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第一章

                     深き者
 そこはカナダの西の果て、プリンスパートからやや南にある漁村だった。カナダにいる者でもこの漁村のことは殆ど知らない。そこに立ち寄る者も少ない。
 しかし今この村に向かう一台の車があった。ようやく雪が消えた道をその白っぽい古ぼけた車がガタゴトと揺れながら進んでいた。
「あのですね」
「どうしたのだ?」
 車は日本車の様でハンドルは右だ。その左の席にいる髪を短く刈った黒い皮のジャケットの精悍な顔立ちをした若い男が隣にいる彼よりはやや年長と思われるスーツの上にクリーム色のトレンチコートを着て茶色がかった髪を左右で分けている細面のその男に対して声をかけてきたのだった。
「ここ何処ですか?」
「カナダだ」
 茶髪の男はこう彼に返すのだった。この髪の毛を短く刈った若者は本郷忠、トレンチの男は役清明である。彼等は日本の京都で探偵をしている。
 その二人が今車の中で揺れている。その中で本郷が役に声をかけてきたのだった。
「それはもう知っていると思うが」
「いえ、カナダなのはわかってますよ」
 本郷は何を今更といった口調で役に返すのだった。
「そんなのもう最初からわかっていますよ」
「わかっているのなら聞かなくてもいいが」
「いや、そうじゃなくてですね」
 本郷は役に素っ気無くされてもまだ言うのだった。
「カナダの何処に行くんですか?それで」
「村の名前は私も知らない」
 本郷は車を運転しながら役の言葉に答えた。
「一体どういった名前なのかな」
「名前も知らないんですか」
「一応名前は聞いたのだがな」
 ここで少し難しい顔になる役だった。
「何とかいった」
「何とかですか」
「もっとも村の名前はどうでもいい」
 そんなのはどうでもいいというのであった。
「名前はな」
「名前はいいんですか」
「それよりも大切なのは仕事だ」
 彼はそちらの方が重要だというのだった。
「仕事だが」
「ああ、何か今回の仕事は妙ですよね」
 本郷はシートベルトをしながらも揺れていた。その中で言うのだった。
 道の左右は見事なまでに分けられた針葉樹林の森がある。道はでこぼこだらけでそのせいでかなり揺れてしまっているのだ。車は彼等の車の他は何も通ってはいない。実に閑散とした道を進んでいるのだった。見様によってはかなり退屈な風景である。
「カナダ政府からの仕事でしたよね、確か」
「政府からの仕事にしてはな」
「そんな名前なんかどうでもいい村まで行くなんて」
「カナダ政府からの仕事ははじめてだが」
 実はそうなのだった。
「そもそもカナダに行くのもな」
「はじめてですよね。アメリカは何度もありますけれどね」
「アメリカはな」
 彼等は何度も行ったことがあるの
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