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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第75話 夜の森
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 ゴアルスハウゼンの村の各所に防御用の結界の構築は終了。
 俺とタバサに対する防御用の護符の装備も当然の如く終了。
 そして、このベルナール村長宅も強力な結界で覆い尽くしました。

 天井の一点。……おそらく、その延長線上にはこのハルケギニア世界の夜を支配する蒼き偽りの女神が存在するであろうと言う場所に視線を送りながら、誰に問われるでもなく、自らの心の中のみで最終確認を行う俺。

 そう、今宵はスヴェルの夜。
 何処までも昏く、何処までも黒い夜。しかし、それは瞳で見る事は叶わない昏さ。
 肌で感じ、臭いで感じ、気配で感じる。

 ただ、漠然とした感覚でしか掴む事の出来ない闇の感覚。

 蒼き偽りの女神のみが蒼穹(そら)に君臨し、夜の子供たちが世界に跳梁跋扈する。
 そんな、剣と魔法のファンタジー世界に相応しい闇に対する恐怖を、非常に強く感じさせる夜。

 このハルケギニア世界に召喚されてから経験して来た、スヴェルの夜に発生した事件は厄介な事件が多く、流石に準備を怠る訳には行きません。
 何故ならば、少なくとも、現在(いま)のこの村に存在する強者(せいえい)と言うのは、俺とタバサ。そして、二人が連れて来ている式神たち以外には存在して居ないのですから。



 タバサの食事が終わり、ベルナール村長が去り、俺とタバサが順番に休息を終えた後。
 現在、俺の腕時計が示す時刻は夜の十一時半を過ぎた辺り。

 流石に地球世界のスイスと比べると温かい……いや、かなり暑いハルケギニア世界のヘルヴェティア地方とは言っても、今は十一月(ギューフの月)第二週(ヘイムダルの週)。夜が更けて来るに従って気温も下降の一途を辿っています。

 夜の帳の降りた室内は、魔法に因って灯された明かりと、蒼き吸血姫の膝の上に広げられた和漢に因り綴られた書籍のページを捲る音のみが支配する静寂の世界と成っていた。
 そう。夕刻……。蒼茫と暮れ行く森の繁みにて保護をした翼人の少女は、未だ目を覚ます事もなく規則正しい寝息を発するのみ。彼女からの証言を得られるのは、どうやら日が変わってからの事と成りそうな雰囲気。

「サラマンダー」

 流石に気温の低下、及びこれから先の危険度を考えると式神を現界させる事で時間を費やす因りは、初めから傍らに居て貰った方が安全と考えた結果、炎の精霊サラマンダーを現界させて置く事とする俺。

 そして次の瞬間。西洋風の紅い炎を連想させるドレスと、紅玉に彩られた美少女姿の炎の精霊が姿を顕わす。
 そう。炎を連想させる紅の長い髪の毛を持つ彼女が現界した瞬間に、下降の一途を辿っていた室温が快適と表現すべき温度にまで一気に上昇したのでした。

 そうして、

「術に因りて飛霊を生ず、顕われよ!」


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