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銀河英雄伝説<軍務省中心>短編集
軍務省のひだまり〜SS寄集め
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1.甘いコーヒー

ふうと息を吐いて、オーベルシュタインが顔を上げた。ぎりぎりに提出された黒色槍騎兵艦隊の演習計画に、ようやく見通しがついたのである。
「お疲れ様です、閣下。コーヒーでもお淹れしますね」
フェルナーは立ち上がって隣の休憩室へ向かうと、軍務尚書専用のコーヒーカップを取り出した。
挽き立てのコーヒーに湯を注ぎながら、二人分のカップを温める。
「今夜はまともな時間に帰れそうだな」
そう呟いて、ちらりと執務室を振り返った。
「あの人も無茶をするからなぁ」
多忙なのはいつものことであるが、有事とあらば2,3日の徹夜などものともしない。一応フェルナーより年長であるはずなのだが。
軍務尚書のコーヒーには角砂糖とミルクを添え、盆を片手に執務室へ戻る。声をかけようとして、フェルナーははたと足を止めた。
組んだ両手に顎を乗せて、オーベルシュタインは瞼を閉じて眠っていた。白髪混じりの前髪がわずかに落ちかかり、意外なほど長い睫毛にかかっている。機械の瞳が隠されているせいか、なんとも中性的な魅力を感じさせる横顔であった。軍人らしくない線の細さも、それを助長しているのであろう。
フェルナーがそっとコーヒーカップを机の隅に置くと、その些細な音でか、それともその香りでか、オーベルシュタインはがくんと肩を震わせて目を覚ました。
「甘いコーヒーをどうぞ」
フェルナーはつとめて平静な口調でそう言ったが、上官はばつの悪そうな顔でついと目を逸らすと、「ああ」と囁くような声を出して、ゆっくりとカップを持ち上げた。

(Ende)


2.嘆き ― 閣下と酒とフェルナーと

「大体…」
隣で黙々とグラスを傾けていた上官が、突然フェルナーの椅子を自分の方へ引き寄せながら口を開いた。頬だけでなく耳まで真っ赤に染め上げて、その半眼はとろりと据わっている。
「大体、我が軍には戦って勝つことにばかりこだわる人間が多すぎるのだ」
椅子の肘かけを握りしめたまま、だらりと下げていた頭を気だるげに持ち上げて、何とも言えない笑みを浮かべる部下の目を睨みつける。
「正々堂々と戦うことだけが正義か。ふざけている。戦うための戦争などという、下らぬ血生臭いロマンチシズムに付き合わされる兵たちの身にもなってみろ」
フェルナーは僅かに緩めていた口元を引き結んで、オーベルシュタインの嘆きに耳を傾けた。あれこれと日頃は表に出さない本音をぶつける上官は、それでもやはり、諸将の才能や力量、そして主君の器量を認めているし、そのことは言葉の端々に表れている。それでも酒の力を借りて嘆きたいことがあるのだと思うと、フェルナーは妙にこの上官の存在を身近に感じた。
「閣下も人の子、というわけか」
呟くフェルナーの視線の先で、オーベルシュタインはいつの間にかカウンターに突っ伏して寝息を
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