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魔石の国―Law and affection―
魔石の国―Law and affection―
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[1] 最後
 一隻の大きな船が海を横切っている。目指す先には、灰色の煉瓦でできた城壁を持つ島国があった。
「しかし、あの国のことを誰から聞いたんだい、旅人さん?」
 甲板では一人の商人の男と旅人、そして一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す。)がいた。
 旅人は十代中頃で、短い黒髪に精悍な顔つきをしていて、黒いジャケットを着ていた。それから右腿にハンド・パースエイダー(注・パースエイダーは銃器。この場合は拳銃)を吊っている。
「黒い尖った珍しい帽子を被っていた人でしたけれど。どうかしたんですか?」
「いや、今まであの国に行こうとする旅人はいなかったからな。それで、尖んがり帽子ってことはまさかあの国出身か?」
「そう話していましたけど。それがどうかしたんですか?」
 旅人が尋ねると、男は徐々に大きくなってきている城壁を一度仰ぐ。
「ふーん、珍しいこともあるもんだな。あそこは魔石の取引以外は何の交流もしない、閉鎖的なところなんだが……」
 男は考えこむような仕草をして、黙ってしまった。
「どうかしたの、オッチャン」
 モトラドが声をかける。若い、男の子のような声だった。
「あそこは原則、住人が国外に行くことを禁じているって聞いていたからな」
 と答えたきり男は沈黙してしまったが、何か思いあたる節があったのか、下向きになっていた顔を上げた。
「旅人さん、尖んがり帽子を被っていた奴は、家族の誰かを探しているとか言っていなかったか?家族じゃなくても身内をさ」
「わお、どうしてわかったの?」
 旅人ではなくモトラドが、感嘆と興味を混ぜたような口調で尋ねる。
 男はモトラドの疑問に答えようと口を開きかけるが

「おーい、おまえいつまで旅人さんと話し込んでいるんだよ。もうすぐ島に到着するぞ。上陸の準備を手伝え!」
と仲間に怒鳴られて肩を縮めた。
「わかったよ!……旅人さん。俺、仲間のところに行ってくるんで、旅人さんも島に渡る準備をしておいてくれ」
 男は返事をすると旅人にそう告げ、仲間達のいる方へ行ってしまった。








 大きな門の前には長い槍を持った門番が二人いた。
 商人達は門番に目的を告げ、一言、二言、言葉を交わす。門番の二人はそれぞれ左右に別れ、城門を開ける。
 商人達は取引する商品を積んだ荷車をひきながら入国してゆく。
 旅人とモトラドはその後から城門へと近づく。門の前まで来たところで
「何者だ」
門番の一人が誰何(すいか)する。旅人の目の前で二人の槍が交差された。
「ボクはキノ、こちらはエルメスで旅をしている者です」
 足を止めキノは名乗る。
「どもね」
 エルメスが挨拶をすると二人は大仰に驚いた。物珍しそうな目でモトラドを見ている。
「観光と休養のためにそちらの国に
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