暁 〜小説投稿サイト〜
【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス
役者は踊る
第四九幕 「零の領域」
[2/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
たがすぐにやめた。篠ノ之流はたかが鉄砲ひとつで揺らぐほど軟な剣術ではないことは自分自身がよく知っていた。

ならば出来ることはただ一つ。正面からぶつかって箒を打ち破るしかない。

だがしかし、それが最も難しい。
嘗て篠ノ之道場に通っていた頃、一夏は体力、技量共に箒に勝っていた。だがあれから既に6年の歳月が過ぎている。その6年に積み重ねた鍛錬の量と密度の差が、箒の構える剣を見るだけで否応無しに理解できる。その剣を見るだけで、一夏はまるで巨大な獅子が唸り声を上げているかのような錯覚を覚えた。だが、耐えられる。ここ3日間ジョウさんからぶつけられた気迫に比べれば、これくらい体を鈍らせる理由にはならない。
しかしそれだけだ。ジョウさんの特訓は強くなるための物というよりはマイナスをフラットまで引き上げるための特訓が多かった。それだけ自分の剣技は錆びついていたのだ。

だから・・・その錆を落とした。篠ノ之流という剣術の極意を存分に振るえるように。

よって、一夏は次の接敵に、次の死合に、次の自分に全てを賭けることにした。


ぴたり、と箒の動きが止まる。

「僅かにこびり付いていた迷いが霧散したな。覚悟を決めたか?」
「・・・全部バレバレか」
「戯け。剣を交えればその程度自ずと判る」
「それでこそ箒だ・・・では」
「いざ!」

「「参る!!!」」

二人が足を踏み出し、二振りの剣が空間を切り裂いた。
雪片弐型の腹を打鉄の近接戦闘ブレードが弾く。その弾いた反動をそのまま乗せて無反動旋回(ゼロリアクトターン)を応用した体さばきでさらに斬りかかり、それも受け止められる。鍔を利用して剣をかちあげて斬りかかり、即座に体勢を立て直した箒の剣に阻まれる。

―――まだだ!まだ!

剣をぶつけ、逸らし、払い、突き、薙ぎ、再び正面から激突する。闘志と闘気が、意志と意思の全てがぶつかる。そのぶつかった先を”予見()る”。この刹那の先にどう動くか、見極める。相手が動きという行動を取る瞬間を一拍とし、それを上回る速度で踏み込む。

「疾ッッ!!!」
「はぁぁっ!!」

集中力を極限まで拡大させる。一瞬を、一拍を、かつて踏み入れた領域へと加速させる。衝突する剣の音さえも置き去りにしてその心は加速する。
自分の動きを自覚する。神経の末端の末端まですべての感覚を意識する。血液の脈動から吐き出す吐息まで全てに(わた)る自分を自覚し、その意識を「一」と数える。

その時、一夏の中で世界が止まった。そして一拍のその先にある世界に、全神経が飛び込んだ。一夏はその瞬間、ISも剣もすべてを纏めてただ一つの斬撃と化した。


(久しぶりに、本当に久しぶりに・・・”至った”)


その時一夏がまず思ったのは、懐古の感情だった。

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ