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夜の影
第五章
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第五章

「あまりにも厄介でした。おかげで勉強するのに苦労しました」
「それはまた」
「八条大学の風変わりな教授にも教わりましたが」
「八条大学の?」
「大和田教授だったでしょうか」
 その名前も二人に話した。
「当時八十近かったそうですが。今も御存命と聞いています」
「あの人ですね」
 役はその教授のことを知っているようだった。実際に目を明るくさせていた。そこに知っているということがはっきりわかるものがあった。
「あの人は語学、勿論母国語である日本語にもかなり堪能な方ですから」
「大和田博士を御存知だったのですね」
「八条大学の風変わりな教授というところでわかりました」
 静かに微笑んで警視正に答えた。
「だとすればあの人しかいませんから」
「だからですか」
「はい。それでです」
 役はまた言ってきた。
「このユトレヒトですが」
「はい」
「やはり坂がないですね」
 役は広場だけでなくユトレヒトという街全体を観ての言葉を出した。
「この街は」
「オランダですから」
 役の今の言葉に対してこう返す警視正だった。
「やはり。そうなります」
「そうですね。オランダですから」
 そして役もこれだけで話がわかったようであった。
「どうしても」
「ああ、それですね」
 そして本郷もわかったようだった。今の二人の言葉に対して納得したような顔になってそのうえで頷く。これが何よりの証拠であった。
「オランダは灌漑でできた国ですからね」
「その通りです」
 警視正は本郷の言葉に対しても述べた。オランダは海を灌漑してそのうえで土地を作ってきた国なのだ。従って平地が圧倒的に多いのである。
「神は海を作られたがオランダ人は陸を作った」
 微笑んで二人にこの言葉を出す警視正だった。
「我が国に古くからある言葉です」
「そうですね。それは」
 役がその言葉に対して頷いた。
「聞いたことがあります」
「我が国は灌漑でできた国です」
 彼はまたこのことを話した。
「ですから。坂といったものもないのです」
「そうだったんですか」
 本郷はこのことをはじめて知ったのだった。
「だからなんですか。そういえば」
「何か?」
「変わった自転車ですね」
 彼は公園の中を進む自転車を見て言ったのだった。
「ブレーキがないですね」
「坂がありませんから」
 警視正はだからだというのだ。
「だからです。ブレーキが必要ないのです」
「そんなにスピードが出ないからですか」
「そうです」
 オランダの自転車は実はそういう事情があるのだ。あくまでオランダのみの話である。
「日本に来てまずそれに驚きました」
「自転車にですか」
「はい。ブレーキのある自転車を見て」
 警視正は本郷に話を続ける。

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