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第一章〜囚われの少女〜
第十六幕『魔術』
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 レナ姫が悪魔の姿の男にかけられた術は、忘却魔術と言われるものだろう――この世界にはそういった魔術、魔法が存在する。
 この世界の本来の忘却魔術とは、戦場の医療から生まれた概念だった。戦場で傷つくのは身体ばかりではなく、精神にも深い傷を負わせた。それは生涯消えない傷となり、その記憶はその人物を一生苦しめ続ける。そこで忘却魔術というものが生まれた。
 しかし、高度な技術を要することもあり、忘却魔術を使える者は限られていた。全ての魔術師が忘却魔術を正しく使えるというわけではなく、また、別の目的で悪用しようと考える者も少なからず存在した。
 悪徳魔術師は当然裁かれるのであるが、忘却魔術を使う場合は綿密な計画を報告し、許可を国から得ることが必要なのだった。どんなものであれ人の記憶を消すものなのだから、それは当然と言えば当然だ。
 私利私欲のためにこの術を使う者は、文字通り悪魔とされた。それを判断する事は、どんなに誠実そうな見た目や厚い信頼を得ていようと、そればかりでは難しい場合がある。悪事を企てる者の思考は読めない。
 しかし、この男が邪悪なのは何も見た目に限った事ではなかったという事だ。

「しっかし、参ったぜ。まさか一国の姫が“見える”とはな」
男は劇場を慌てて飛び出し、その上空に浮かんでいた。
「……あ」そして自分の過ちに気が付く。
「どうせならあのまま、さらっておけばよかったな……」
忘却魔術を先程のように使えるのなら、姫を連れ去り、周りの記憶を消すという方法もあった。ではなぜそうしなかったのか。それにはどうやら、この男の能力と魔術が未熟だという欠点が関係ありそうだ。術はその労力と引き換えに、男に副作用をもたらすようだ。何やら男は顔をしかめ、頭を抱え始めた。
「う……さすがに術を使いすぎた、な……」
そのままふらふらと下降して行き、そして気を失った。城の傍ら、木の茂みの中に落ちていった。


――


 レナ姫は先ほどの憂いが晴れたかのように、観劇へその身を没頭させていた。劇場にいる観客共々、怪物となり果て国を脅かす存在となったエリオを憐れんでいる。エリオは国民さえも襲い、脅威として恐れられ、憎まれた。それは憎悪の怨念として怪物の中で増幅していき、さらに凶悪な悪魔の騎士へと力をつけてしまったのだった。

 悪魔に魂を売ったことと引き換えに、ダークナイトへとその身を堕落させたエリオ。しかし皮肉なことに、ジュリエッタは生きていた。姫という地位を捨て、衣服も脱ぎ姿を変え、独り国を逃げだしたのだった。それをエリオは知らない。いや、今のエリオにはそれを知ることはできない。
 自我を失い、人の言葉をきく事のできる耳はもはや残っては居やしない。心というものや愛というものは、昔のように純潔なものには戻らないだろう。エリオを染めてし
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