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占術師速水丈太郎  ローマの少女
第二十五章
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第二十五章

「その証明がこれです」
「そういうことですか」
「はい、満足して頂けますか?」
「よい感じです」
 それはアンジェレッタの期待した返事であった。期待した返事を手に入れることができて彼女はその喜びをさらに大きなものにさせていた。
「そうですか」
「はい、朝はあまり食欲がないことが多いのですが」
「食べられると」
「よいエネルギーになりますね」
 速水は食べながら答えた。
「ではこれを食べてから」
「わかっております」
「また街に出ましょう。しかし」
「何でしょうか」
 その言葉を聞いて顔をあげてきた。何かを調べるように。
「彼女は。昼には出ないのですね」
「どうやらそのようですね」
 アンジェレッタの猫の目が光った。そこから黒い光が放たれている。
「となれば夜しかない」
「待ちますか?」
「いえ」
 しかし速水はそれも否定した。これはあえて否定したのである。
「何分待つのは性分ではないので」
「ではどうされますか?」
「歩きましょう」
 速水はこう提案してきた。
「私はローマの者ではありません」
「ええ」
 言うまでもないことではあったが確かにそうである。ローマの者が最もローマを知っている。ある意味自明の理であるとも言えることである。
「ですから地の利はあちらにあります」
「ではまずは土地勘を得られると」
「どうでしょうか」
「悪くはないですが。ですが」
 アンジェレッタは彼に対して述べる。怪訝な声であった。
「そう容易にはいかないかと」
「ローマは広いからですか」
「そこに歴史が加わります」
 それが最大の難点であった。ローマにあるのは一つだけではないのだ。歴史がそれをモザイク状に無数のものとしているのである。それがローマという街なのである。
「このローマはモザイクなのですよ」
「様々なものが入り混じっていると」
「そう、そして迷路を形作っています」
 アンジェレッタはそのモザイクを迷路であると評してきた。確かにそういう見方も可能である。ローマとはそういう街であるのだから。言うならば巨大なラビリンスである。歴史と神々、教会、そして陰謀と政治がアラベスクの様に入り混じっているのだ。それで街を為しているのである。
「迷路ですか。確かに」
「おわかりになられますね」
「この街が普通の街ではないことは確かにわかります」
 それは容易にわかった。
「複雑怪奇な迷宮ですね」
「そういうことです」
「そしてそこに彼女がいる」
「ローマの少女が」
「言うならば私達はミノタウロスですか」
 ギリシア神話に例えてきた。
「私達がですか」
「そう、彼女を追う立場にあるのですから。ローマという巨大なラビリンスの中で」
 かってダイダロスがミノス王の命令で築
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