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"……けて"

 ああ、まただ。
 命の気配が感じられぬ闇の中で鈴の音のような声が俺の耳をくすぐる。
 目を開けば、キス出来そうな距離に紅い瞳、癖っ毛の女の子。
 ここしばらくはずっとこの夢しか見ていない。

"た……て"

 俺の頬に手を当てて懇願する少女。
 気付けば俺も彼女も裸で、絡みつく裸体はどこまでも艶めかしい。

"助けて、くれるよね?"

 紅い瞳が俺の心まで射抜く。
 助けるとは何だ? お前誰だよ? そんな言葉が喉までせり上がって、舌で解れていく。

"だってあなたは――――"

 俺は?

"ワ タ シ ノ オ ウ ジ サ マ ナ ン ダ カ ラ"

 熱い熱い接吻、舌まで入れられて、このまま蕩けてしまいそうだ。
 けど――――これはヤバい、俺は何時もここで少女を突き飛ばす。
 そしてこの後の展開もお決まりだ。

"……"

 違った、いつも通り悲しげな瞳をして消えていくはずだった少女は未だに留まっている。

"私なのにワタシじゃない、でも……良いよ。今度はきっと……待ってるから、ね?"

 俺の身体が闇に溶けて行く、夢から醒める合図だ。
 少女は身じろぎもせずに俺をただただ見つめていた。

「――――ぁ」

 克明に思い出せる夢の内容。
 まず目に入ったのはピンク色の証明に照らされた天井だった。

「……欲求不満と言うわけじゃないと思うんだがね」

 隣にいる何処かで引っかけた女の乳を揉む。
 寝ている女は僅かに艶っぽい声を漏らすだけ。
 あんな夢を見てはいるが、少なくとも欲求不満の線はなさそうだ。
 溜まったらちゃんと発散しているし。

「あ――起きたんだ、キーくん」

 目を擦りながら嬉しそうに語りかける女。
 それよりも何よりも、俺は一つ疑問があった。

「キミ、名前何だっけ?」
「――――!!!」

 一瞬の沈黙の後に凄まじい衝撃が俺の頬に奔る。
 女は何かを喚き散らしながら服を着て、さっさと出て行ってしまう。
 デリカシーの欠片もない発言だったが、もう二度と会うこともないだろうし忘れるに限る。

「あー……いってぇ」

 枕元に置いてあった煙草を咥えて火をつける。
 バニラの甘い煙が室内を満たしていく。

「あの夢もそうだが――――今夜は特に酷いなぁ」

 一番旧い記憶を辿れば十年前に辿り着く。
 それ以前に何をしていたのか、一切合財不明。
 今の俺として始まった十年前から、俺は既知感とでも言うべきものを感じていた。
 ふとした拍子に、俺は前もこんなことをしていなかったか?
 そんな摩訶不思議な感覚。
 俺はそれから逃げるように色んなことに手を伸ばしたが、一向に消えず。
 唯一の救いは
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