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占術師速水丈太郎 五つの港で
第十八章
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第十八章

「それでは」
「お豆腐か牡蠣ですか」
「若しくは馬刺しか」
 選択肢が一つ増えていた。しかしそれもまた速水にとっては嬉しいことであった。
「どれにされますか」
「そうですね。ここはですね」
「はい」
「牡蠣ですね」
 微笑んでそれを選んだのであった。
「ここはです。牡蠣です」
「牡蠣ですね」
「やはり。これが一番いいです」
 右目を細めさせての言葉である。それは自然となっていた。
「ですから」
「わかりました。それでは」
「牡蠣料理を全てお願いします」
 今ある三つだけではないというのである。
「そしてお酒もです」
「それはまた」
 店の者も彼の今の言葉を聞いてである。目を細めさせて述べるのであった。
「御健啖ですね」
「食べるのは好きです」
 速水もそれは否定しなかった。やはりその目は細めさせたままである。
「それに」
「それに?」
「飲むのもです」
 そちらもだという。彼はそのどちらも愛しているというのである。
「ですから。お酒もです」
「はい、持って参ります」
「今日は楽しい夜が過ごせそうです」
 あらためて言う彼であった。
「色々と歩き回り動き回りましたが」
「そうしたお仕事なのですね」
「時としてはそうです」
 少なくとも今している仕事はである。そうなのであった。
「ですから今はです」
「多く召し上がられるのですね」
「飲みもします」
 それも欠かせないというのであった。
「英気を養う為に」
「左様ですか。それでは」
「はい、お願いします」
 こうして彼は酒と牡蠣を中心とした御馳走を心ゆくまで楽しんだ。そのうえで歩いて学校まで帰った。
 門を通りであった。学校の中を進み宿舎に戻ろうとする。しかしここでふと若い男に声をかけられたのであった。見れば若い黒と金のあの幹部自衛官の制服を着た男であった。
「あの」
「はい?」
「速水丈太郎さんですね」
 いきなり彼の名前を尋ねてきた。
「そうですね」
「その通りですが」
「そうですか。お待ちしていました」
「といいますと」
「はい、お風呂には入られますか?」
 その幹部自衛官はこうも尋ねてきたのであった。見れば小柄でやや垂れ目である。。階級を見ればやはり一尉である。言葉のニュアンスは関西のものである。
「そちらには」
「お風呂ですか」
「もう入られたでしょうか」
「いえ、まだです」 
 それはであった。確かにまだであった。それはまだだったのだ。
「それが何か」
「ではすぐにバスタオルや洗面器具を揃えられて」
「ああ、それはお構いなく」
 しかしそれはいいという速水であった。
「それは私の方でどうとでもなりますので」
「そうなのですか」
「はい、お気遣いなく」
 
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