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占術師速水丈太郎 白衣の悪魔
26部分:第二十六章
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第二十六章

「このシャトー=ムーン=ロートシルトは熟女ね」
「そう捉えられますか」
「ええ。この豊潤な味と香りがね」
 述べながらワインを手に取る。そうしてまずは一口含んだ。その言葉通り豊潤で丸みのある味であった。彼女をその味を口の中で楽しみながら言うのであった。
「熟した美女の味なのよ」
「それではオージービーフのステーキは」
「健康的な田舎娘かしら」
 それについてはこう評する。
「あっさりしていてまだ未熟だけれどそれだからこその味わいがいがある」
「そちらもですか」
「そうよ。つまり今私達は」
「熟れきった美女とまだ熟していない少女を同時に味わっている」
「そういうことになるわ。どちらもまた美味なもの」
 沙耶香は今度はステーキを食べた。ソースと赤みの多い肉が実によく合っていた。焼き火加減はレアでそれもまた彼女の好みであった。
「あら」
 そのレアを食べて面白そうに声をあげた。
「オージービーフだから硬さと肉汁の少なさは覚悟していたけれど」
「これはかなりのものですね」
「そうね。未熟な娘を既にといったところかしら」
「これも貴女の好みでは?」
「否定しないわ。ただ」
 だがここで言ってきた。
「そこからさらに進めていくけれど」
「さらに?」
「ええ。私好みにね」
 またワインを口に含み一旦肉の味を消す。オージービーフとは思えないまでの濃厚な味を同じく濃厚でありながらそこに丸みを及ばせているワインで消しながら飲んでいた。
「変えてあげるのよ」
「それはまた。貴女らしい」
 速水もそれを聞いて笑みを浮かべてきた。彼もまた肉とワインを同時に楽しんでいた。彼もまた肉はレアでその味を楽しんでいた。彼もまたレアが好みであったのだ。
「御自身の好みに変えていかれるとは」
「けれど今は違うわ」
 しかしそのうえで今はそうではないと否定してきた。
「今はそれよりもそのままの味を楽しみたいわ」
「そうですか」
「ええ。まさかこれだけの味だとは思わなかったから」
 食べながら述べる。
「楽しませてもらいたいの」
「それは何よりですね」
 速水もその言葉を聞いて笑みを返した。
「私の紹介は正解でしたか」
「そうね。気に入ったわ」
 妖しいがそこに楽しさを帯びさせて答える。
「この店の雰囲気も料理もワインも」
「どうもです」
「さて。もう一本貰おうかしら」
 ステーキを半ば食べ終えたところで言ってきた。
「ここは」
「そうですね。それでは私も」
 速水もそれに続いた。そうして二人はそのまま美酒と美食を楽しんだ。その下で彷徨っているであろうあの魔人のことは一旦は忘れて。
 だが忘れていたのは一瞬である。二人はホテルを後にするとすぐに仕事の顔に戻った。酒は最早二人の中に消え去
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