暁 〜小説投稿サイト〜
私立アインクラッド学園
第二部 文化祭
第28話 直葉の想い
[1/2]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
「……直葉、曲を2つ作らせて頂いたのですが……どちらの曲を選ばれますか?」

 授業後、まりあが直葉の教室まで来て訊いてきた。曲というのは、文化祭で歌うもののことだ。
 直葉は渡された二枚の譜面を見る。
 ひとつは?Sky The Graffti?。アルヴヘイムでシルフの少女?リーファ?として大空を飛び回る楽しさを描いた明るい歌。
 そしてもうひとつは──?Face to You?。桐ヶ谷和人の妹・桐ヶ谷直葉としての、和人への想いと葛藤を描いた切ない歌。

「……お兄ちゃん」

 直葉はぎゅっと譜面を握りしめた。
 まりあが遠慮がちに言う。

「……両方歌いたい、と思うならそれでも構いません。でも……この2曲は本当に対照的なので、想い入れの強い方を選ばれた方がいいかなって……」

 直葉は小さく頷き、一枚の譜面を差し出した。

「……あたし、こっちを歌います」

 直葉の言葉に、まりあは微笑んだ。

 *

「……お兄ちゃん」

 声と共に、後ろからブレザーの袖の裾を引っ張られる。振り向くと、立っていたのは──。

「……スグ」
「……お兄ちゃん、ちょっと来て」
「えっ?」

 直葉は袖を掴んだまま、ずんずんと歩き出した。

 **

 直葉は音楽室に着くと、和人から手を離した。

「──お兄ちゃん。まりあさんが、あたしに2つ曲を作ってくれたの」
「……みたいだな」
「片方は、文化祭で使うことにした」

 直葉は心を決め、和人の眼を真っ直ぐにとらえた。

「──もう片方は、今お兄ちゃんの前で歌うことにしたわ。聴いてくれるよね?」

 和人は一瞬驚いていたが、すぐに頷いた。
 この間は和人に、酷いことを言ってしまった。言ってはいけないことを言い、傷つけてしまった。なのにどうして、あんなに優しい表情ができるのだろうか。きっと直葉には無理だ。
 直葉が和人への想いに気がついたのは、彼の過去について親から教えられた頃。本当の兄ではないことを知り、直葉は気づいてはならなかった想いに気がついた。
 今日はその想いにケリを着ける為にここへ来た。
 直葉はすうっと息を吸い込んだ。

 ──"そんなのわかってるよ"
 何度言い聞かせて君から目を逸らしただろう
 掛け違えて余ったボタンは
 一つこぼれた涙みたい

 ──"そんなのわかってるよ" でも伝えたいよ
 きっと真っ直ぐな言葉で 向き合うから

 直葉は和人へのありったけの想いを歌に込めた。
 だからもう、未練はない。和人をこれだけ傷つけてしまったのだから、もう二度と会わない覚悟だ。

「……スグ」
「やめて、お兄ちゃん。何も言わないで。わかってるから」
「……ありがとう」

 意外な言葉に
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ