第二章:空に手を伸ばすこと その五
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日が東より登っていく。燦々とした光に照らされて膨大なまでの死体が晒されていた。その数はまともに数える気にもなれないほどであり、眠るように斃れた者もいれば、惨たらしい姿を晒す者もいた。一夜における襲撃において、彼らは黄色の頭巾を血と土によって汚してしまい、さらには通りすがりの野鳥に身体を貪られる始末であった。『生活が少しでも良くなれば』、という思いよりはせ参じた王朝への反乱がこのような結末を迎えるとは、生前の彼らは露とも思っても居なかったであろう。
無造作に晒された死体の間を幾百もの者達が歩き回り、死体に近付いてはその都度、様子を窺っているようであった。彼らは二人でペアを作り、その手には粗製の槍が握られている。
「おい、気を付けろ。そいつはまだ生きているぞ」
「ん?おお、言われてみれば」
「油断するなよ。賊徒は死ぬ寸前まで潔さというのを知らん。討ち漏らしは無いようにと皇甫嵩将軍からの御達しだ」
「分かってるって。連帯責任なんかとりたくないっての」
ぶすりと、槍が男の首元に突き刺さり息の根を止めた。彼らはこうやって、死にぞこないの賊徒らに慈悲をかけているのであった。捕虜となる者達は大概が無傷か軽傷である。それ以上の怪我を負った敵兵の面倒を見る責任は取らないというのが、長社の将軍らが下した決断であった。無情であると思われるかもしれないが、しかし将軍らの決意に揺るぎは無い。一度反旗を翻されれば、それを徹底的に潰さぬ限りまた新たな反旗が翻ってしまう。それがこの中原の血の掟でもあった。
仁ノ助はそれらの様子を、高々と牙門旗がはためている長社の城壁より見下ろしていた。地面に向けられた視線は賊徒らの最期を見ているようで、実際は何も見ておらず、遠くにある何かを見ているようにも感じられた。まるで戦場の騒々しさとは正反対である、川の清流のような穏やかで懐かしいものを見るような、そんな遠い視線であった。
その時、城壁の階段を上って夏候惇が現れる。まだ戦の滾りが残っているのか、勇ましい美顔がやや紅潮している。返り血を浴びていないのは流石といった所であった。
「ここにいたのか、仁ノ助」
「! 夏候惇将軍!御無事でしたか」
「当り前だ。私は畏れ多くも華琳様より兵を預かる身だ。これしきの戦場で傷を負うようでは、天下泰平の世を築くまでに何度死んでいる事か。貴様はどうなんだ。無事か、そうでないのか」
「怪我はありません。馬を失ってしまいましたが、ですが万事問題ありません。それよりもお見せしたいものが」
「なんだ?戦場で見つかるものなどたかが知れているが・・・」
仁ノ助は傍にあった木箱を抱えると、その蓋を取って見せる。中身を見て夏候惇は顔を顰めた。
「不快なものを見せおって。それは誰だ?」
「敵将です。当て勘で、波才って叫ん
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