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至誠一貫
第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
四十 〜愛の狭間〜
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けた、か」

 疾風は、小さく頷いた。

「冀州は、洛陽にも近く、土地も豊かです。渤海郡太守を切欠として、狙いを定めたのかと」
「そして、力を蓄えて、要職の座を伺う……そう言う筋書きだな」
「……それから、今一つ」
「む? まだあるのか?」
「はい。袁紹殿と曹操殿が、因縁の間柄、という事もあると見ています」

 華琳は、エン州刺史に任ぜられた。
 となれば、華琳に対抗意識を燃やす袁紹としては、同格ではなく、更に強大な権限を持つ州牧を、と考えても不思議はない。

「……だが、わからぬな。黒山賊の一件での奴らの態度、あれは、何と見る?」
「推測ですが、既に冀州に勢力を築いている事を見せつけ、我らを牽制するつもりだったのではないかと」

 袁紹が、冀州牧を狙う理由はわかる。
 ……だが、その為の手回しの良さ、これが気がかりだ。
 袁紹本人は無論だが、顔良や文醜には、このように策を講じる事は出来まい。

「疾風。袁紹か、若しくは袁紹の預かり知らぬ場所で、画策する者がいるな」
「ええ。それも、ただの策士ではないでしょう」
「その者を突き止めよ。袁紹が州牧の座を手にしてからでは、手の打ちようがなくなる」
「御意!」

 兵権を持つ州牧となれば、刺史と郡太守のような、曖昧な関係ではなくなるだろう。
 無論、郡太守は実質州牧に取り込まれる……そう見た方が良い。
 いずれにせよ、早急に対策を講じる必要があるな。

「疾風、ご苦労だった。お前でなければ、これだけの事を調べ上げるのは不可能だ」
「い、いえ。私は武骨者、こんな事でしか歳三殿のお役には立てませぬ」
「何を言うか。私は、本心から感謝しているのだ」
「……ありがとうございます」

 疾風が、ふと上目遣いになった。

「む? 如何致した?」
「……あの。歳三殿、先ほどのお言葉、嘘ではありませぬな?」
「何を言うのだ? このような事、偽りで言う私と思っているのか?」
「……いえ。ならば、お願いがございます」

 珍しいな、疾風から願いとは。
 だが、疾風の事だ、無理難題は申さぬだろう。

「良いだろう。言ってみるがいい」
「……で、では。今宵、お側に……」
「…………」
「は、はしたない女と、お思いですか……?」

 よほど思い詰めていたのか、いつになく疾風は真剣な眼差しだ。

「いや。だが、唐突だな。何があった?」

 ふう、と大きく息を吐いた。

「歳三殿は、皆の前で申されました。全員を等しく愛して下さる、と」
「確かに申したな。今も、その気持ちに変わりはない」
「……はい。ですが、私は不器用。本当に、歳三殿に想いを伝えきれているか。……不安なのです」

 一笑に付す事も出来る。
 少なくとも、私は疾風
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