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銀河英雄伝説〜悪夢編
第十二話 ちょっとやりすぎたよね
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り何も気付いてはおらぬようだな」
軍務尚書の問いかけに国務尚書は溜息を吐きながら答えた。全くあの老人は何を考えているのか! ……いや何も考えてはおらぬのだろうな、溜息が出た。軍務尚書、統帥本部総長も溜息を吐いている。

「あの男の才覚に頼むしかないな」
「いささか厳しいですな、三個艦隊の内二個艦隊が敵では……」
「遠征軍の規模を大きくは出来ぬか、味方を増やせば……」
「年内出兵が難しくなります、金もかかりますな」
軍務尚書が首を振りながら答えるとリヒテンラーデ侯が顔を顰めた。

「もし敗北すれば、連中は必ずヴァレンシュタインの処罰を求めてこよう。となると彼の後釜が要るな」
リヒテンラーデ侯が我々に視線を向けてきた。誰が居るかと問い掛けている。非情な事だ、所詮ヴァレンシュタインもこの老人にとっては駒の一つなのだろう。

あの老人を補佐出来る者、野心を持たぬ者と言えば……、メルカッツしかおらぬ。ヴァレンシュタインに比べればいささか臨機応変の才に欠けるが……、今は辺境だな、早急にオーディンに呼び戻すか……。



帝国暦 486年 10月 15日  オーディン  グリンメルスハウゼン元帥府  ハンス・エドアルド・ベルゲングリューン



グリンメルスハウゼン元帥府の会議室には正規艦隊の司令官、参謀長が集められていた。会議室の空気は硬い。会議室の参加者はただ一人を除いて皆表情が強張っている。
「そういう事での、ロイエンタール提督、ミッターマイヤー提督、今回の遠征はクライスト、ヴァルテンベルク大将に譲って貰わなければならんのじゃ。悪く思わんでくれ」

グリンメルスハウゼン元帥の言葉にロイエンタール提督が
「承知いたしました」
と答えミッターマイヤー提督が無言で頷いた。皇帝陛下の御意向が有っては否などと言えるはずもない。どれほど不本意で有ろうともだ。それにしてもクライスト、ヴァルテンベルクとは……、あの味方殺しの一件以来閑職に回されていた。日の出の勢いの総参謀長を快くは思っていまい。

「総参謀長、後は頼んで良いかの」
「はっ」
グリンメルスハウゼン元帥は満足そうに頷くと席を立って会議室を出て行った。呑気な老人だ、欠片も危機感が感じられない。自分がどれほどの厄介事を抱え込んだのか分からないのだろう。

「どういう事かな、唐突だが」
「誰かが皇帝陛下の耳元に吹き込んだ。それが出来るだけの人物が動いた、そういう事だろう」
ミッターマイヤー提督とロイエンタール提督の遣り取りに皆が頷いた。おそらくその人物も想像が付いただろう。

「どうやらブラウンシュバイク公にしてやられたようです。かなり不満を持っているとは聞いていましたが……」
「何を呑気な事を、あの二人は卿に恨みを持っているんだ。とんでもない事になるぞ
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