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ニュルンベルグのマイスタージンガー
第一幕その八
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第一幕その八

「とても優しい人なんだからな。滅多に殴られたりしないよ」
「おや、そうなのか」
「結構怒られてないか?」
「あれは教えてもらってるんだよ」
 こう彼等に反論する。
「それに言葉遣いだってきつくないじゃないか」
「まあザックスさんはそんな人じゃないけれどな」
「それはな」
 実際のところ彼等もわかっていた。あえて言っているのである。
「まあとにかく。今日試験を受けるんだろう?」
「本当に歌手になれるぞ」
「いや、僕は今日は止めておくよ」
 ここで彼は右手を前に出して制止する動作でそれを否定した。
「それはね」
「じゃあ誰なんだ?」
「御前じゃないっていったら」
「今日はこちらの騎士殿が受けられるんだ」
 こう言ってヴァルターを手で指し示す。ヴァルターもそれを受けて徒弟達に対してさっと礼をする。
「こちらのね」
「へえ、そうなのか」
「そちらの騎士殿が」
「生徒でもなく歌手でもなくて」
 ダーヴィットは仲間達にすぐにヴァルターのことを説明しだした。
「詩人でもない。けれどすぐに親方になろうとね」
「マイスタージンガーに?」
「すぐに?」
 これには徒弟達も驚きを隠せなかった。
「おいおい、本当か?」
「それはまた凄いな」
「だから皆注意してくれよ。記録席はそこでいいよ」
 今カーテンに囲まれて設けられた席を見て言う。
「うんそうそう。それでですね」
 今度はヴァルターに顔を戻して述べた。
「あのカーテンに包まれた席に記録係が座るんです」
「それで歌を採点すると」
「その通りです。間違いをチョークで記録しまして」
「うん」
「間違いは七つまで許されます」
 ここで右の人差し指を立てて説明してきた。
「七つ以上は」
「どうなるんだい?」
「歌い損ねで落第です」
 静かにヴァルターに告げた。真面目な顔で。
「ですから気をつけて下さい。マイスターの方々の採点は厳しいですから」
「そんあになのかい」
「はい、ですが合格したら」
 今度はあえて薔薇色の未来を語ってみせる。
「絹で作られた花の冠が贈られます」
「そう、絹の冠なんですよ」
「栄光の冠ですよ」
 徒弟達もまたヴァルターに対して話すのだった。あれこれしている間に舞台は整いそれぞれの椅子にクッションも置かれる。このようにして準備が整った時に二人部屋に入って来た。
 一人はやけに大柄で謹厳な顔は聖職者を思わせる。白髪を丁寧に後ろに撫で付け青い目は強い光を放っている。丈の長い焦茶色の上着に白いシャツ、それに黒いズボンといった格好だ。
 もう一人は彼に比べるとやや小柄だがやはり背はある。四角く人懐っこい顔で高慢ぶってはいるようで何故か愛嬌も備わっている。目が少し斜め上に吊り上がっている。茶色の髪を
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