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ニュルンベルグのマイスタージンガー
第一幕その十二
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第一幕その十二

「求婚の歌合戦では勝利の賞がかけられます」
「それだな」
 ベックメッサーはここでまた言った。
「その賞だ」
「その賞もその歌も後の世の語り草になります」
 このことを強調するポーグナーだった。
「私は神の恩寵を得て富裕の身となりましたが与えることのできる者は分に応じて与えるべきとすれば」
「その場合は」
「どうされるので」
「私自身の恥にならぬように何を与えたらいいかと考えました」
 他のマイスター達に対して述べていく。
「それで私が思いついたことですが」
「はい」
「私がこのドイツを旅してしばしば見て残念に思ったことは」
 また言うポーグナーだった。
「市民達の評判がよくないのです」
「それは残念なことです」
「全くです」
 マイスター達はそれを聞いて顔を曇らせた。
「我等の評判がよくないとは」
「また心外な」
「諸国の宮廷や庶民の間でも」
 ポーグナーはさらに言う。
「私が嫌になる程聞いたのは市民は商売や金銭以外には何の興味もない」
「誹謗中傷ですな」
「全く」
 マイスター達を顔を顰めさせずにはいられなかった。
「我等は芸術を愛しているというのに」
「そうです。このドイツの中で」
 ポーグナーはマイスターの一人の言葉にここぞとばかりに応えた。
「我々だけがまだ芸術を守っているというのに。それを名誉にしているというのに」
 ここで悲しそうな顔になるのだった。
「誇らかな勇気を以って美と善を尊重し」
 彼はまた話す。
「芸術の尊さと意義とを高めていることを世間に示したいと思っているのです。そして」
「そして?」
「私はこの祭の歌合戦で優勝した者には」
 ここで高らかに言うのだった。
「私の財産全てと一人娘のエヴァを差し上げましょう」
「何と素晴らしい」
「流石はポーグナーさんです」
 マイスター達はポーグナーの言葉を聞いて高らかに彼を讃えるのだった。
「これ程素晴らしい贈り物はない」
「ニュルンベルグの誇りだ」
「全くだ。しかしな」
「そうそう、僕達皆彼女がいるし」
 徒弟達は残念そうに述べた。
「それはね。親方達もね」
「殆ど結婚してるしね」
 皆ここで何気にザックスを見たりもしていた。
「じゃあ誰が一体」
「いるんだろうな」
「私の贈り物は娘です」
 またポーグナーが言う。徒弟達のザックスへの視線はあえて無視してだ。
「審判はマイスターの組合が決めますがその賞は結婚です」
「だよなあ」
「考えてみれば凄いよな」
「全くだ」
 皆口々に言うのだった。
「師匠達の決定を花嫁が承諾するかどうかは如何でしょうか」
「それはどうでしょうか」
 ベックメッサーがここで口を入れてきた。
「マイスターを貶めるものでは?
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