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男装の麗人
第三章
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「けれど俺のスーツ上手に着てるな」
「あなたもね」
 それは二人共だというのだ。
「私の服を上手に着てるわね」
「だといいがな」
「ええ、いい感じよ」 
 その夫に微笑んで言う。
「後はウィッグをつけてね」
「メイクをすればか」
「完全に誰が見てもね」
 女だというのだ。
「そうなれるわ」
「そうか」
「私もね」
 そして涼子自身もだというのだ。
「今からね」
「男になるのか」
「私があなたに、あなたが私に」
 夫婦として言う。
「そうなるわ」
「二人でそうなるんだな」
「いいわね、それじゃあ」
 涼子はネクタイを締めながら言う、そして勇太も。
 ガーターを着けた、そうしてだった。
 二人はウィッグも被りメイクもした、その姿はというと。
 勇太は長身の艶やかな美女だった、涼子は化粧はしているが麗しい美男子だった、その涼子が夫の顎に手を当ててその目を見て言った。
「いい感じよ」
「おい、何か妖しいな」
「妖しいわね、確かに」
「男に言い寄られているみたいだ」
「私もね」
 涼子は女になっている夫を見ながらくすりと笑って述べた。
「女を口説いてるみたいよ」
「何だ、この感触は」
「不思議よね」
「ああ、それでこれからどうするんだ?」
「レストラン予約してあるわ」
「そこに行くんだな」
「そこで一緒に食べて」
 そしてだというのだ。
「後はね」
「後は?」
「ホテルの部屋もね」
 そこも予約してあるというのだ、涼子は全てを周到に整えていた。
「そこで一緒に過ごしましょう」
「家には帰らないんだな」
 二人が今いる本来の場所には、勇太は涼子に問うた。
「そうしないんだな」
「ええ、今はね」
 いいとだ、涼子はこう答えた。
「そうしましょう、今の私達は私達であって私達でないから」
「そうだな、今はな」
 勇太は女になっている、言うならば涼子の夫になっているのだ。
 涼子もだ、今は勇太の夫だ。
 その夫婦が入れ替わっている中に日常はない、それ故にだった。
 二人は今は家を出た、そうして。
 夜の街に出た、紫や白の何処か虚ろな光に照らされた世界の中に。
 街を二人で歩く、その時行き交う人々が彼等を見て言うことは。
「あの男の人綺麗ね」
「凄い美人だな」
「カップル?夫婦かしら」
「美男美女よね」
「モデル同士みたい」
「面白いわね」
 涼子は勇太をエスコートしながらくすりと笑って言う、その顔は誰がどう見ても男のものだった。
「皆私達のことを夫婦って思っていてもね」
「男か女かはわかってないな」
「ええ、それがね」
 面白い、涼子はくすりと笑って述べる。
「凄く、面白いわ」
「何かな、こうして一緒にいるとな」
「どんな気持ちかしら」

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