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季節の変わり目
休み明け
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 3年C組の教室は緑に囲まれたグラウンドに面し、四階から住宅や小さいビルが一望できる。クラスはAからEまであり、総生徒数は約1000人にのぼる。二学期の最初の授業は古文で、夏休みの宿題を提出しなかった生徒が立たされて先生に説教をくらっていた。佐為はそれに興味を示さず、ずっと窓際の後ろの席で窓の外を眺めていた。古文の授業は好きだが、この先生の説教の時間の長さには呆れてしまう。最初の授業からこの調子では、自然とあの充実した夏休みを思い出す。

 「はやくも夏休みボケなの?」

休み時間になってすぐに筒井さんは教卓の前の席を立ち、人ごみをかき分けながら佐為のところへ行きついた。対する佐為は筒井さんに視線を移して気だるげに微笑し、それに頷いた。

「碁がもっと打ちたいのに、夏休みが明けると、学校が終わってからしか打てませんから」

筒井さんは「そうだろうよ」と言って、佐為の休みの間の碁への執着は半端じゃなかったと続けた。それに佐為は笑みをこぼすと、筒井さんが手にしているものに気づく。

「ああ、これ。棋院で撮った写真。焼き増ししておいたから。はい」

「ありがとう、公宏」

半透明のカバーに収まった写真を受け取り、中から数枚の写真を取り出した。一番上にあるのは、棋院に着いてから撮ってもらった写真だ。三人とも、囲碁部らしい活動に嬉しそうな恥ずかしそうな表情を浮かべているのに、佐為は思わずくすくす笑う。筒井さんもまたその様子につられて目を細くする。

「帰りは進藤君がいてくれて本当に助かったよ。でもやっぱりタクシー代のことは悪かったな。僕は駅から近いのに、彼、僕が電車から降りる直前にお金を握らすんだもの」

写真に視線を戻すとあのときの光景が浮かんでくる。あの言い争いの後から何となく気まずくなっていた私たちだったけれど、公宏や藤崎さんがいてくれたおかげでまた仲を取り戻すことができた。帰る間、公宏がヒカルの近況をいろいろ聞きだすから、ヒカルもいつまでも居心地悪そうにはいられなかったみたいだ。久しぶりに会う公宏との話に華を咲かせて、いつの間にかヒカルは私とのケンカのことなんか記憶の隅に置いていったようだった。

「公宏、ヒカルは前からあんな感じだったんですか?聞いていた話と違う気がして」

私の質問に、公宏は可笑しそうに反論した。

「いやいや、中学の頃の彼は僕が話していた通りの子だったよ。って言っても僕が彼と親しかったのは一年くらいだからね。性格も変わるさ」

「公宏と同じで、藤崎さんもいつもヒカルの笑い話ばっかりしていましたからね。初めてヒカルと会ったとき、聞いたことがある名前だなあとしか思いませんでした」

「一度君にも見せたじゃないか、週刊碁に載ってた進藤君の写真」

そういえば、見せてもらった気がす
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