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外伝 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
追憶  〜 オフレッサー 〜
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に勇者無し。さらばだ、リューネブルク”
いや、あそこで散ったからこそ飲んで欲しかったと思うのだろう。人は無理な事ほど叶えたいと願うものだ……。あの男が捕虜に甘んじる事など有り得ない。

「オフレッサー閣下と一騎打ちをなされたそうで」
「ああ」
親父がゆっくりと頷いた。
「二、三年前からあの方は嘆いておられました。装甲擲弾兵としての自分は少しずつ衰えていると」
「衰えている?」

「はい、そして願っておられました。自分がヴィクトール・フォン・オフレッサーとして闘える間に思う存分闘える相手と出会いたいものだと。……御辛かったのでしょうなあ、ただ老いていくという事が……」
「……」
親父は遠くを見ている。無愛想な親父の詠歎する様な口調が心に残った。力有る男がその力を発揮する事無く老いていく、その事に苦しんでいる。傍で見ているのは辛かっただろう。親父が俺を見た、穏やかな目をしている。

「喜んでおいででしたよ、オフレッサー閣下は。ぎりぎりで間に有ったと、ヴィクトール・フォン・オフレッサーとして闘えると……。このまま朽ちて行くのかと思ったが大神オーディンは最後に俺の望みを叶えてくれたようだとおっしゃっていました……」
「そうか……」
俺は間に有ったのか……。

“卿とは闘えぬのかと思った。だが大神オーディンは俺を哀れんでくれた。卿が来てくれた時、一騎打ちを望んだ時、俺は嬉しかった。感謝するぞ、リューネブルク。良く此処へ来てくれた”
あの言葉に偽りは無かった。オフレッサーは本当に喜んでいた。しかし、衰えていた? それが事実なら俺が勝てたのは僥倖としか言いようがない。

親父がゆっくりしていってくれと言って厨房に戻った。運が無かったな、オフレッサー。衰えていなければ勝利を収めたのは卿だっただろう。いや、衰えていたからこそ俺と戦いたがったのかもしれない。そうでなければ俺との戦いなど望む事は無かったはずだ。歯牙にもかけなかったに違いない。

食事は美味かった。絶品と言って良いシュラハトプラットと美味い白ワイン。十分に堪能できた。勘定を済ませる時、親父にまた来てくれと言われたが素直に頷く事が出来た。妙なものだ、来るときに有った拘りは綺麗に消えていた。

“このシュラハトプラットを食べて戦場に出る、このシュラハトプラットを食べるために戦場から戻る、その繰り返しだ。人間など大したものではないな、いや、それとも大したことがないのは俺か……”

その通りだ、オフレッサー。人間など大したものではない。詰らぬ事でくよくよ悩み、美味いものを食べれば悩みも消える、そして何を悩んでいたのかと馬鹿馬鹿しく感じる、その程度の生き物だ。だがそれでも何かに拘る、拘らずにはいられない、それも人間だ……。

卿が俺との一騎打ちに拘ったのもそれだろう。卿
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