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一人では行かせない
第二章

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 その赤ワインを飲んでそして言うのである。
「飲まないとね」
「それ毎日じゃない」
「毎日言ってるじゃない」
「飲む為にはね」
 それにはというのだ。
「ちゃんと朝には起きて走ってるし」
「ああ、毎日それでお酒抜いてるのね」
「出勤の時はしゃきっとしてるけど」
「そう、それでお昼はしっかりと働いて」
 仕事は出来る、頼りにもされている。
「それでね」
「それからよね」
「夜にはこうしてなのね」
「そう、飲むのよ」
 今の様にだというのだ、言ってワインを飲み干して。
 席のチャイムを鳴らし店員さんを呼んでだった。
「赤ワインもう一杯」
「はい」
 こうしてワインを頼みまた飲むのだった。
 そうしてパスタ、山菜のペペロンチーノを食べながら言う。大蒜まで効いて実に美味い。
「それが人生よ」
「お酒のみの人生ってね」
「恋愛とかしてみたら?」
「まあそのうちね」
 恋愛についてはこんな感じだった。
「相手がいればね」
「相手は見つけるものでしょ」
「そうなるでしょ」
「まあそうかも知れないけれどね」
 麻美も同僚達の言葉は否定しない。
「それはね。けれど」
「今はお酒?」
「そればっかりっていうのね」
「彼氏って言われても」
 どうかというのだ、やはり飲みながら。
「見つけたら別だけれどね」
「やれやれ、これは駄目ね」
「このまま飲んだくれね」
 周りはそんな彼女に呆れる位だった、とにかく麻美は飲み三昧の夜を過ごす筈だった、この日もまたである。
 しかしこの店を帰る時にだった、カウンターで。
 きりっとした顔立ちに皺がある、年齢は三十代半ばであろうか。
 黒髪を後ろに撫でつけた長身の男をそこで見た、店の白いブラウスと黒のベストにズボンがよく似合う。ネクタイも黒だ。
 その彼を見てだった、麻美の態度が一変した。
 彼を見て硬直していた、言葉もない。
「えっ、麻美どうしたの?」
「何かあったの?」
「・・・・・・・・・」
「ってまさか」
「まさかと思うけれど」
 その彼をじっと見る麻美を見てわかった。
「とりあえずお金払ってね」
「そうしましょう」
「三名様ですね」
 男も言って来た、その声もだった。
 実にいい、渋みのあるやや低いテノールの格好いい声だ。
 その声でだ、彼は問うたのだ。
「それで宜しいですね」
「はい、お願いします」
「三人で」
 同僚達が応じそしてだった。
 勘定を払った、それで店を出ると。
 麻美はぼうっとした、酒に酔ってではなく別のことでそうなっている顔でこう言葉を漏らしたのだった。
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