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ラ=トスカ
序曲
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序曲

                  ラ=トスカ
                   序曲 
 ナポレオン=ボナパルトという男がいた。コルシアに生まれフランス陸軍士官学校を出た後軍人となった。門閥の出ではなく風貌も冴えない小男であり士官学校での席次も大して良くはなかった。世が平穏な時ならばおそらくごく普通の砲兵将校として歴史に名を残すことなく人生を終えていたであろう。だが時代が彼を激動の舞台へと誘った。
 寒波によりセーヌ川が凍りパリに食料を運ぶことが困難となった。これが引き金となり革命が起こった。
 革命は思いもよらぬ方向へ進んでいった。ラファイエットやミラボーといった穏健的王党派が表舞台から去り王政が倒れると穏健的共和派であるジロンド派、そして急進的共和派ジャコバン派が目まぐるしく政権の座についた。
 その中でナポレオンは頭角を現わしていった。武勲を挙げ若くして閣下と呼ばれる身となり政府の領袖達にもその名と軍事的才能を知られるようになった。やがてフランス国民の大部分を占める農民の支持を得た彼は所謂『ブリューメルのクーデター』を起こし執政政治を開き自ら第一執政となった。フランスは彼のものとなった。
 次に彼が狙ったのは長靴であった。豊かであり政治的に分裂した状況にあったイタリアに攻め込むのは二回目であった。それだけに北イタリアを勢力圏に収めているオーストリア、そして南部を支配するナポリ王国は脅威を覚えた。彼等はそれまでにもナポレオンの軍事的才能の前に敗北を続けておりその配下にある兵達の横暴の凄まじさも身を以って知らされていた。
 それに対し先頭に立ってフランス軍と対峙したのがナポリ王妃マリア=カロリーネであった。オーストリアの偉大な女帝マリア=テレジアの皇女である彼女は愛する妹マリー=アントワネットがフランス革命政府によってギロチン台で処刑されたことを決して忘れてはいなかった。迫り来るであろうフランス軍に対し激しい敵意を、そして母国オーストリアやイギリスの強力な支援を背景とした戦力でもって迎え撃たんとしていた。
 イタリア中がフランス軍に恐れおののく中で啓蒙主義や無神論に影響を受けフランスの革命思想に傾倒する者達もいた。ナポレオンは彼等を利用し表向きは友人としてだが実際は傀儡として彼等を駒として使っていた。
 カロリーネにとってこの様な革命政府の同調者は獅子身中の虫であった。彼等を厳しく取り締まり次々と処刑していった。その激しさは彼女がナポレオンに対して向ける憎悪と比しても全く遜色の無いものであった。フランス軍とカロリーネによりイタリア全土が赤黒く生臭い血の帳に覆われたかの様であった。
 それはロムルスとレムスによって建てられ歴史と神に愛された古の都ローマでも同じであった。否神の代理人が座すこの都の重要性は誰もが知るとこ
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