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剣の丘に花は咲く 
第八章 望郷の小夜曲
第六話 変わらないもの
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 深い深い森の奥深く。


 視界全てが緑に溢れる森の一角。


 木々の枝葉の隙間から零れ落ちる光に照らされ、緑の中に混じる色鮮やかな花々が華開く。

 
 しかし、そこには音がなかった。


 虫の音。


 葉がそよぐ音。

 
 生き物が歩を進める音。


 ありとあらゆる音が消えた世界。

 
 音一つ無き世界。 


 絵画の如き世界。


 生命の輝きに満ちるそこが、音が無くなることで無機質に変わる。

 
 世界を黙らせたのは二つの影。


 静まり返った深い緑の奥深くで対峙する二人。


 一人は蒼き衣を身に纏い、手にするは十字架を連想させる長剣。

 
 一人は赤き衣を身に纏い、手にするは黒と白の双剣。

 
 互いに剣を構え、対する二人の距離は二十メートルあまり。


 常人ならば全力で駆けても数秒は掛かる。しかし、その距離は二人にとってはないものと同じであり、そのことを対峙する二人は互いに良く知っていた。


 対峙する相手の剣の切っ先が、喉元に突きつけられていると理解していた。


 迂闊に動けば斬られる。


 故に互いに相手の隙を伺い、剣を構えた姿のまま動けずにいた。


 牽制するように、対峙する二人の身体から放たれる闘気が辺りの空間を歪ませ、軋む音が聞こえるかのようで。


 対峙する二人の姿に恐るように、世界はただただ押し黙り。


 世界に沈黙が満ちていた。











 不意に風が生まれ―――静寂の世界が壊れた。
 鋼の鑢で剣を剃り下ろすかのような音を、何十倍も大きくしたかのような金属音が響き、その度に枝葉が飛び木々が軋みを上げる。
 
「ッ!!」
「ハアアッァアア!!」

 セイバーが振るう長剣を士郎は―――逸らす流す逸らす逸らす逸らす逃す逸らす―――決してまともに合わせない。
 流れに逆らわず、セイバーが振る長剣を導くように剣を振るう士郎。長剣を導く度に、金属を削るような不快な音が響くが、士郎の顔が不快に歪むことはない。そんな暇などないのだ。厳しく引き締められた顔には、大量な汗が浮かび、剣を振るう度に宙を舞う。
 
 ―――……失敗した。

 迫り来る死の嵐を必死に逸らしながら、士郎は自分の失敗を認めていた。
 自分の失敗は三つ。
 毎朝の試合形式の鍛錬で、セイバーが一度全力でやってみたいと言った時に断らなかったこと。
 その際セイバーに渡した剣の選択。

 そして―――。

「オオオオオオッ!!」
「ッ!!」

 右から迫る剣を、その勢いを殺すことなく双剣で左に逸らすと、セイバーはその流れに逆らうこ
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