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シンクロニシティ10
第六章
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 駒込駅の改札を抜けると、頭上を山手線外回りの電車がレールを軋ませながら通り過ぎて行く。見上げるとコンクリートで固められた天井が振動に震え、微細な塵が頭上を舞っていた。蕎麦汁の匂いが漂う駅構内抜けて左手に折れると、狭い路地の両側に軒を連ねて商店が並んでいるのが見える。
 右手前には手作りパンの店。一つ先に油臭い肉屋、その前にこじんまりとした喫茶店がある。男は手にしたバッグを持ち替えて喫茶店のドアノブを引いて中に消えた。牛田洋介はやや傾斜のある道をゆっくりと歩いて、ガラス越しに店の中を覗いた。
 男は店のママとなにやら話し込んでいる。二人の姿は洋介の視界からすぐに消えた。戻って喫茶店に入るべきか迷ったが、止めにした。喫茶店のママと何を話しているのか興味はあったが、あまりにも店が狭過ぎる。顔を覚えられる危険は避けるべきだ。
 そのまま歩いてアパートに向った。ここ駒込の地はかつて丘陵地帯であったらしく土地に高低差がある。細い道を左に折れると飲み屋が軒を連ねる路地だが、少し行くと小さな階段が幾つも続き、登り切ると広い通りに出る。
 その途中に洋介が新たに借りたアパートがあった。
晴美の元彼であるノボルの攻撃は執拗だった。しかたなく東長崎のアパートを引き払い、従兄弟のマンションにもぐり込んだ。その浮いたお金で駒込のアパートを借りたのだ。東長崎の家賃の半分で、正にボロアパートである。
 ドアを開けるとすぐに3畳の台所、便器とユニットバスは一体型、その先は六畳の和室、そして最低限の電化製品とベッド。ただそれだけの空間。場違いな望遠鏡とノートパソコンが妙に目立っていた。洋介はどっかりとベッドに座り、望遠鏡を覗き込んだ。
 望遠鏡の先は地上5階建ビルの三階の一室に固定されている。いつものように事務所には秘書兼総務の中年女性がパソコンに何やら打ち込んでいる。経理担当なのか爺さんが計算機を叩きながら、伝票を繰っている。彼は70歳を過ぎているはずだ。 
 もう一人は、40代の営業マンで、すこしヤクザっぽい感じのする優男だ。普段は地方に出張しているらしく、めったに事務所にはいないが、今日は珍しくどっかりと腰をすえて机に向っている。出張の清算でもしているのだろうか。
 たった4人の事務所。中国福建省、そしてギリシャから大理石を輸入し、加工して卸す輸入商社だ。建材としてではなく美術品として大理石を扱っている。都内に職人を数人抱え顧客の注文に応じて研磨して納める。時計や花瓶そして置物、中でも高級電気スタンドの台座は注文が多いという。
 バブルの頃、小野寺巌が不動産取引に乗り出した場所は新宿である。西口の高層ビルの一室に事務所を設けた。しかし、この古びた5階建てのビルではバブルとは関係なく粛々と業務を続けていたのである。
 レンズに小野寺の姿が映し
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