暁 〜小説投稿サイト〜
命短し、恋せよ軍務尚書

[2/3]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初
さく肯いた。しばらく考えてから、どちらの可能性の方が高いのだろうかと呟く。
「それは無論、後者ですよ。閣下に興味がないのなら、そもそもチケットなんてくれません。閣下と行きたいけれど言い出せないから、閣下に誘ってほしいんですよ!」
フェルナーは力説したが、正直なところ五分五分だろうと思う。何しろその時の状況を、彼自身が見ているわけではない。もし彼女の表情や仕草を見ることができたら、おそらくもう少し確実性の高い話ができたのだろうが。だがそれでも、オーベルシュタインにはアタックして欲しいと思うフェルナーである。
「女性にここまでさせて、それに応えないなんて男が廃りますよ」
「……そういう……ものだろうか?」
なおもうじうじと呟く上官に、何か決め手となるものがないかと、フェルナーは上質なデザインのチケットを眺めて考えた。
「そういえば、閣下はピアノがお好きですか」
質問の意図が分からず、オーベルシュタインは小首を傾げた。
「嫌いではないが」
「では、彼女とピアノの話をしたことは?」
「……なかったと思うが」
「そうですか……」
「それが何だというのだ」
黙り込んでしまったフェルナーに、オーベルシュタインは急かすように言った。フェルナーが戸惑いながら口を開く。
「いえ、ピアノコンサートは好みが分かれるでしょう。興味のない人間にとっては、どうしようもないほどつまらないものです。普通、初めて誘うのなら、映画の話題作とか、そういった当たり障りのないものにすると思ったのです。ですから、お二人がピアノの話でもなさったのかなと」
なるほどと、オーベルシュタインは肯いた。しかし、言われて再度思い返してみるが、そのような話をした覚えはない。
「しかし、映画でなくて良かったのだ。暗室での巨大なスクリーンからの強烈な光というものは、義眼の採光量の調整に不具合が生じるからな」
何気ない上官の言い訳を、フェルナーは聞き流そうとしてハッとした。
「それですよ、閣下!」
「……?」
状況を飲み込めていない上官に、フェルナーは確認するように畳みかける。
「その話を、彼女になさいませんでしたか」
オーベルシュタインは額に左手を当てて考え込んだ。
「……したかもしれぬ。ああ、確か曇りの日に。こういう天気は空が白く光り、ハレーションを起こしてしまうのだと言った時に、そんな話をしたような気がする」
フェルナーはしたり顔で笑った。
「ほらほら、もう決まりじゃないですか!これは、閣下のために用意されたチケットなんですよ」
絶対に誘ってあげて下さいねと、何度も念を押されて、冷徹なる義眼の持ち主は、その顔の赤みを強くした。

 その後、フェルナーは、無事コンサートへ出かけた上官から、土産と称して彼女と選んだのだという菓子折をもらったり、ツーショット写真を押し
[8]前話 [1] [9] 最後 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ