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くらいくらい電子の森に・・・(誰も死ななかった編)
終章
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目に青葉 山ほととぎす 初鰹。

などと世間では申します。

新緑まぶしい皐月の夕暮れ。

僕は、鰹を肴に、一杯やってます。…僕の地元…の近所(と言い切っていいのかどうか分からないけど世界レベルで見れば近所)、天文館通りの片隅で。

「…あれ、こっちの方言、だったんだな…」
隣の男が、低い声でぽつりと呟く。僕は答えず、ぐいっとお猪口をあおる。男は間髪入れず、お猪口を満たした。
「芋焼酎じゃないのか。地元民なのに」
「僕、芋焼酎苦手なんで」
「そりゃ難儀だな。この県、全国で唯一、日本酒作ってないんだろ」
「最近は作ってるらしいっすよ。ほら、これ」
お猪口を掲げる。
「薩州正宗。ほんっと、最近造り始めた酒っす。串木野の、金山跡で。僕も初めて呑んだけど」
「へぇ…味見していいか」
僕は、彼の空いたグラスに少し酒を垂らしてやった。彼は一口呑むと、んー…という顔をして、もう一口なめた。
「まー…西の方の酒って、ちょっと雰囲気違うよな…」
「女子向けなカンジですよね」
「…悪りぃな、なんか…気の利いたコメントできなくて」
「そんなのいいっすけど…」
「別に不味いとかじゃなくて、俺どっちかっていうと焼酎派で…。あー…だめだな、俺」
隣の男は、小さくため息をついて頭を垂れた。体はおおきいのに、いちいち細かいことで傷つく男だな、と思う。

僕は何故か、地元の居酒屋で烏崎と呑んでいた。


店の外には、呪われたランドナーが停めてある。
結局、鬼塚先輩の予言通り、ランドナーは僕が継承することになった。あの事件の直後、僕の自転車が『屠られた』のだ。そこら辺に停めておいた愛車は、バックしてきたダンプに完膚なきまでに押しつぶされて、ジャンクと化した。
その夜、僕の愛車が夢に出てきたっけ。
『…なんか、どっちにしろ、ランドナーはあなたが継承するみたいです』
みたいなことを、苦笑い混じりに語って消えた。どっちにしろって何だよ。

そして新緑の頃。僕はサークルの連中に見送られ、恒例の『地獄の列島縦断ツーリング』に出かけることになったのだ。ここは僕の地元、列島縦断の最終地点だ。
「しかし…あんな自転車で列島縦断ってなぁ。死人とか出ないのか」
「死人でも出たら、こんな馬鹿な慣習はなくなるんでしょうけどね。…僕が第一号だったらイヤだなぁ」
「気をつけろよ。若いのは、無茶ばっかりしやがるな」

―――あんたに言われたくない、の一言を押し込める。

永い永い、永遠かと思われるオンボロ自転車走行の果てに、ほうほうの体で地元の街に辿り着いた。今日はようやく、布団のある場所で眠れる。放心状態で天文館通りを彷徨っていると、後ろからポンと肩を叩かれた。
「………よう」
「………烏崎………!!」
咄嗟に身構えた。突然、単身で僕
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