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くらいくらい電子の森に・・・(誰も死ななかった編)
第三章 (1)
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然好みのタイプじゃない。ただ、あの瞬間、あの横顔は、いやに鮮明に眼窩に焼きついた。

僕はベンチから立ち上がると、先刻なんとなく受け取ったチラシをすべて屑篭に放り込んだ。風が凪ぎ、桜霞が嘘のように晴れ渡る。その向こうに広がるのは、まだ少しくすんだ空の色。

僕は、自転車に乗れるサークルを探して、勧誘地帯に踏み出した…

……そんな感じでポタリング部に入部して、早や9ヶ月近く経とうとしている。
部活動のために予約された会議室の片隅で、ちょうど僕と対角線上の席で女の子と談笑している柚木の横顔を眺めながら、あの桜の頃を思い出していた。
あの横顔を初めて見た瞬間、自転車に乗りたい!という思いが沸きあがって入部した。そこに、あの横顔の子がいて、自己紹介で『柚木』という名前を知った。サークルに綺麗な女の子がいる、その事実だけで、僕も『あっち側』の人になれるかも!と内心小躍りしたことを覚えている。

……僕は、浅はかだった。

このサークルは、大まかに3つの派閥に分けられる。
まず1つは、このサークルの主流とも言える、ちょっとイイ自転車とスポーティーなスタイルで街を走る『おしゃれ街乗り派』。女の子が多く、柚木なんかもこの派閥に入る。ビアンキとかルイガノとかの、おしゃれでメジャーな街乗りサイクルを好むのが特徴だ。他サークルとの掛け持ちの子が多く、会合の顔ぶれが毎回異なる。
そしてもう一つは、ある意味ここの主力とも言える、体育会系派閥『ロードレーサー派』。いかにも速そうなロードバイクを好み、なんか過酷そうなレースに参加する。空気抵抗少なそうな、ピッタリ体に張りつくウェアに身を包み、街乗り派の男子を一段低く見ている感じ。その割には街乗り派女子の目は異様に気にしている。
そして最後の一つ。…ポタリング部の暗部に君臨し、ヴィンテージパーツをヤフオクで落とした話とか、古いクロスバイクをドロップハンドルに改造したいんだけど誰か部品余らせてないか、とかそんな話に花を咲かせる『改造マニア派』。「CNC!」とか「カンパニョーロ!」とかそういう単語にいちいち反応して、どうせ使わない部品を有難がったり磨いたりするのが主な活動内容。メンテナンスも簡単なやつなら出来る。ロードレーサー派とは利害が一致するので仲がいいけど、街乗り派には若干遠巻きにされている。

―――僕が、所属する派閥だ。

無事アウトドアサークルに入って油断しきっていた僕は、あっさりとマニア派の強引な勧誘の餌食になった。そして元々手先が器用でインドア系の素養があったこともあり、夏休みが終わる頃には主要メンバーの1人に落ち着いていたのだ。
「姶良よ」
「なんすか」
神妙な顔で自転車パーツ情報誌を読んでいた鬼塚先輩が、ふと顔を上げて話しかけてきた。
「俺はまだ、『おしゃれ化』への道を諦めてな
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