黄巾の章
第10話 「お、おの……れぇ!」
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―― 孔明 side 洛陽近郊 山間部 ――
「夜間の間の松明は、常に一人で二つ持つようにしてください。篝火は通常より多く、炊き出しは通常の三倍でお願いします」
今、私は黄巾の砦がある山の反対側の麓に陣を張らせています。
本来は人員的には三千ほどしか連れてきてはいません。
でも、それを即席で作った兵の案山子や篝火、炊き出しの量などで、傍目にはその二倍から三倍にもいるように見せかける必要があるのです。
さも、ここに一万もの兵が陣を張っている。
朝までは、そう思わせねばいけない策なのですから。
「孔明様! 鳳統様から一度目の木材が着きました」
「わかりました。予定通り配置してください、雛里ちゃんはどうしてますか?」
「はっ……そのまま予定通り罠を仕掛けているようです。しかし、運ばれたのはほとんどが湿気った生木です。よろしいのですか?」
「はい。それだからこそ意味があるんです」
私は、兵隊さんにそう告げながら配置図が描かれた紙の上に、駒を置きました。
策の為に高価な紙を提供してくれた霞さんには、感謝しています。
「生木にはかならず火種となる薪を混ぜてください。なるべく広く、浅くに焚き木を組みます。あと、生木には薄く油を塗ってくださいね」
私はそう言って自分の人差し指を口にくわえて唾液を含ませた後、空に突き立てました。
風向きを調べるためです。
「……盾二様のおっしゃるとおりですね。山頂に向けての上り風。さすがです」
盾二様はおっしゃいました。
山岳部に作られた砦にはそこに作られる意味がある、と。
それは山が攻められにくい場所であること、高所からの矢が遠方へ届きやすいこと。
その為に風向きが直下への吹き降ろしであろうこと、など。
つまり……反対側の斜面では風は上に登るのだということです。
「孔明様! 砦を見張っていた細作からの報告です。黄巾は予想通りこちら側の斜面の高台に移動する模様」
「わかりました。作業を急いでください! もうまもなく夜になります。それからが本当の勝負ですよ!」
私はそう叫びつつ、赤焼けに沈もうとしている太陽を見る。
あと数刻。
それが本当の勝負です。
―― other side ――
馬元義様が一万の兵と共に出発して半刻。
すでに太陽は沈み、夜の帳が下りている。
砦にはまだ一万の兵が、慌しく戦闘の準備をしていた。
援軍にしろ、敵の伏兵にしろ、砦側の防備も怠ってはならないのだ。
「副官。篝火は通常より激しく炊くのですか?」
「ああ。反対斜面に出撃したとて、こちらが襲われる可能性がある。常に麓への警戒は怠るな」
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