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隅々に眠る
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 走るタクシーは揺れる。
 時折道路にできた大小のある起伏をいくつも乗り越えては大きく揺れる。
 ただそれはなんというか、とても外側の話で。内側における揺れはあまりないように思う。それはきっと――いや間違いなく――この窮屈さにあるに決まっているんだけど。
「おい姫希(ひめき)。そんなに変なところばかり触るんじゃねえよ」
「事実無根だ。オレはそんな変なところを触っちゃいない」
「よく言うぜ。このラッキースケベ」
「仮にそうだとして、それをお前が言うもんじゃねえんだよ。お前はラッキースケベの被害に会う側なんだから」
「あたしは別にいいんだぜ? 姫希に些細な幸福プレゼントってな。へへっ。サンタクロースにはまだ早いか」
 狭い後部座席にはオレを入れて三人の人間が窮屈にまとまっている。
 その内の一人、オレから見て左にいる女が分母(ぶんぼ)。大小分母(だいしょう ぶんぼ)。
 変わった名前だと思うよ。
 そう言うと決まって嫌な返しをされるから言わないんだけど。
「ねえ姫希。本当に分母にいやらしいことをしたの? 私が隣にいるのに」
「してない。断言する。葉(よう)は良い子だからオレを信用するだろ?」
「良い子って言い方は好きじゃないわ。私はもう十歳よ? そんな子供じゃないの」
「あっはっは! 笑わせるな葉! お前なんて十歳にしてもガキっぽい風体じゃないか」
「そりゃあババアから見ればそうに決まってる」
「ババア!? おい葉! 今お前ババアって言ったのか!」
「ほら、もう耳がババアじゃない。やーいババア。この若さが恐ろしいのかしら。恨めしいのかしら。ああいやだ。老女の僻みほど醜い物ってないわ」
「うるせえなちんちくりん! あたしがババアならお前は一生あたしや姫希と同じレベルにはこれねえんだろうよ。そうやって置いてかれるんだばーか! あたしは姫希と一緒に上からお前を見下ろしてるからな!」
「姫希!」
「なんでオレだよ!?」
「分母はババアでしょ!?」
「葉はクソガキだ! なあ!?」
「どっちもクソガキだろ……」
 左。幼女。
 本名は瑞菜葉(みずな よう)。
 オレと分母からすれば随分といい名前だと思う。とっても瑞々しくて、それに――兎に角、とってもいい名前なんだ。
「でもなあ葉。分母がババアならオレはジジイだぜ。それは間違いない」
「姫希はいいの!」
「どうして。そうはならないよ。オレは分母と一緒に、老人同士仲良くやるさ」
「イエア! 子供はなんて名前がいい?」
「武だな。男らしい名前がいい」
「ダメーっ! ダメダメダメ! 二人は結婚なんてしないのよ! ダメなんだから!」
「ははっ。そんなにダメならしょうがないな」
「ダメじゃない! ダメじゃねえぞ姫希!」
「頼むから十歳に張り合わな
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