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Sleeping Rage
act-1"the-world"
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 環太平洋統一連合
 日本
 東京



 雲一つ無い蒼空の下を人型をした《巨人》は飛翔していた。―否、その表現は厳密には間違いである。なぜなら《巨人》の眼下には海原に点在する島々のように雲が浮かんでいるからである。内部に収められた大容量バッテリーによって駆動する《巨人》は腰部と肩胛骨部にコネクトされた高出力バーニアによって大空高く飛翔し、ラジエータープレートを兼ねた大型の可変翼による揚力で鳥人の如く飛翔していた。人の如き鋼鉄の四肢と頭部に収められた“目”であるカメラアイを備えた《巨人》―Main Offensive Large Loader、通称「M.O.L.L.」である。
 空中戦闘仕様M.O.L.L.「イカルガ」の編隊が月之宮学園都市の遙か彼方の上空を飛翔する。三機のイカルガはまるで定規で線を引いたように一直線に飛行し、そのあとに飛行機雲を残していた。これから警戒飛行に入るのだろうか、その方角は東―東京湾である。つい先日、同盟国アメリカからの物資輸送タンカーにWRFの工作員が潜入していたとニュースで派手に報じられていたことは記憶に新しい。ニュースではその詳細こそ語られなかったものの、SNSを中心に「悪天候による視界不良を利用してタンカー上空から潜入した」と言うスパイ映画顔負けの潜入を行ったという噂が流れた。あまりにも荒唐無稽で、危険極まりない方法であったが、わざわざM.O.L.L.を出動させてまで警戒飛行を行うとは、連合軍の参謀はその噂を鵜呑みにしているのか、それとも何らかの確信があるのか、はたまたそれとは無関係なものなのか。―おそらく大半の人々は気に留めもしない。
 シノノメ ユウトは月之宮学園高等学校の片隅、新緑の葉々が映える紅葉の木の足下に腰を下ろしてM.O.L.L.の残した飛行機雲を眺めていた。「今日は三機だ」ユウトは誰にともなく呟く。昼休みの食後、この紅葉の木の足下で読書をすることは彼の日課だった。最近はそれに加えて、警戒飛行を行うM.O.L.L.の数を数えることも日課となっている。一週間前は五機。三日前から四機。今日は三機。四日後にはまた一機減るのだろうか。
 彼はM.O.L.L.の機影が校舎の向こうに消えるのを見届けると、山吹色のブックカバーで覆われた文庫本をスピンを目印に開く。一昔前のテレビゲームを題材にしたSF小説。テロリストに占拠されたプラントへ秘密工作員が潜入すると言う、スパイ小説である。21世紀初頭に発表されたストーリーであるがそのSF考察は見事で、特に主人公が己の過去を突きつけられ、苦悩する展開は非常に引き込まれた。これでこの作品を読み返すのは三度目である。ストーリーは全て頭に入っているし、何処でどのような台詞が挿入されるかも覚えている。だが、近年出版されている粗製濫造された、ありふれた内容の小説にわざわざ金
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