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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十八話 日常の終わり、軍人として
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皇紀五百六十八年 五月二十日 午前第十刻
ノルタバーン辺境領 モールトカ 東方辺境鎮定軍総司令官執務室
鎮定軍参謀長 クラウス・フォン・メレンティン准将


 歴戦の将校であるメレンティンが理論と経験の両方から信ずる限り、動く組織の規模が大きくなればなる程に抱える問題が厄介になる。であるからには彼の愛しい姫君が東方辺境領鎮定軍の増強を行うにつれて彼女と総司令部が処理すべき問題は雪達磨式に増えてゆく事は彼にとって自明の理であった。

「忌々しい」
 そしてそれはユーリアが不機嫌さを隠さなくなる程度には膨大なものとなっていた。
「昨今の戦で玉薬の消費量が増加傾向にある事は分かっていました。ですが――」
 メレンティンの言葉をユーリア姫は手を振って遮った。

「予算の許容範囲を超えている、それこそが忌々しいの。
あの男、私が自前で民を養えない無能者だと言ったのよ。これでは奴の言ったとおりじゃない。
――参謀長、貴官は何か手をうったのだろう?」

「帝都からは色好い返事はありませんでした。
アスローンとの間でまたぞろ小競り合いが始まったらしく、本領の備蓄は其方に回さなければならないそうです。我々には六基数を回すだけに留めると通達がとどいております」
 メレンティンの報告が進むにつれ、ユーリアの表情に憂鬱の色が濃くなっていく。
「東方辺境領の独自経済を弱体に止めたのは東方辺境領副帝家の反乱を恐れた中央連中の政策だ。ならば軍需程度は融通をきかせてとうぜんだろうに。
まったく、彼方此方で暴動が起きた責任は誰にあるのやら」
 最近、財政の話になると苛々とした様子が見せるユーリアをメレンティンは微笑を浮かべて見守っている。
 ――あの青年の所為なのだろうな、少なくとも東方辺境領姫としては好ましい変化なのだろうか?

「ですから東方辺境領残置部隊から保有弾薬の半数を回させています。
これで七月下旬までに千二百発を基数として各砲門辺り、十基数分を確保出来ます。
現在の手持ちと合せ、二十基数となりますな」
「よくやってくれたわね!」
一転してユーリアが賞賛の笑みを送るが、メレンティンは渋面を浮かべている。
「ですが、こうなると東方辺境領からのこれ以上の増援は本土の蛮族共が大人しくしていても弾薬事情で極めて困難になります」
 本領に縋るしかない、そう言外に仄めかせながら参謀長は言葉を続ける。
「更に攻囲戦に陥った場合、このままでは弾薬も砲も不足する可能性があります。
地図の・・・此処です、このコジョウと呼ばれる山地の周囲で粘られたら相当厄介になります。」

「クラウス、ならば貴方は私に伯父上に泣きつけと言うの?」
 そうユーリアは硬い声で反対するが、メレンティンはこれは単なる軍事的な問題ではないと認識しており、珍し
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