暁 〜小説投稿サイト〜
レンズ越しのセイレーン
Report
Report8-1 ディオニシオス/スターター
[1/3]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
 触らぬ覇王に祟りなし。
 そう思ったから街中でその男を見かけても通り過ぎようとしたのに。

「あ、王様だ。王様〜!」

 横にいたエルが無邪気に手を振ってしまったものだから、あっさりとユティはガイアスに捕獲された。




(なるべく避けろって、アルおじさまから教わってたのに)

 クランスピア社本社ビル前にて。ユティはガイアス、そしてタイミングを読んだように顕現したミュゼと対峙していた。

「ミュゼが街中にいるの、目立つね」
「しょうがないわ。私もこれ以上人間らしい形態になることはできないんだもの」

 せめて翅は隠せ、と一体パーティの何人がツッコミを堪えたのだろう。

「王様。ワタシに用事なんでしょう」
「ああ。ローエンから話は聞いた。ユティ、お前もルドガーと同じ、骸殻能力者だったそうだな」
「うん」
「何故隠していた?」
「ルドガーが気にすると思って。コレはルドガーの大事なアイデンティティ。おいそれとワタシも使エマスなんて言えたものじゃなかった。キジル海瀑の時も、本当は出すつもり、なかったんだけど」

 希少価値は、希少だから価値なのだ。パーティにおいてルドガーだけが骸殻能力者だという事実は、ルドガー本人も意識しないところで彼の自信になってくれていたのに。

 どう省みてもあれは失策だった。少し離れたせいでルドガーをみすみす危険に晒し、さらにはユリウスに自傷させた。その事態を招いた己を許せず、骸殻を解禁してまで戦った。

 要するにヤケっぱち。

 あれ以来、ルドガーとはほとんど口を利いてない。ミラもエルも何も言わないが、両者の不仲を感じ取っている。
 返す返すも悔やまれる。

「ワタシが骸殻能力者だとどうしてアーストに呼び止められるの?」
「ルドガーの時と同じだ。お前が世界の命運を背負うに足る人間かどうか見極めるために来た。お前がどう務めを果たすのかを俺に見せろ」

 ユティは深く深くため息をついた。骸殻能力者だと伝わればガイアスは必ずこう言いに来ると分かっていた。

(でも、ちょうどいいかもね。ワタシもこの人とは一度話したいと思ってた。ルドガーを見極めにわざわざ任務に同行したって聞いた時からずっと。ユースティアには余分な感情なのに捨てられなかった。ここで――抹消する)

「ワタシがふさわしい人間じゃなかったら?」
「斬る」
「ま、当然よね」
「ダメだよ、そんなの!」

 エルがガイアスとユティの間に立ち塞がった。ルドガーの時もエルはこうした。

(本当に勇気ある蝶ね。昔はそんなエル姉に憧れもしたのよ)

 ユティはエルをふり向かせ、正前で片膝を突いた。

「エル、今から一人で帰れる?」
「……王様といっしょに行くの?」
「それは、王様次第」
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ