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河童
終章
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「――いつまで隠しておく気だ?」
いっちゃんと柚木が帰るのを窓から見下ろしていると、後ろで紺野がぼそりと呟いた。
「何のことかしら」
「…もう、思い出してるんだろ。姶良のことも、家の事も全部」
「どうかしらね」
奴は柚木が見舞いに持ってきたシュークリームを、口一杯に頬張っていた。紺野にしては、いやにぼそぼそ喋ると思った。紺野は一旦、シュークリームをぐびっと呑みくだすと、少し真面目な顔になってクリアファイルを取り出した。
「狂ってるフリもだ。いい加減にしないと、ますます警備がきつくなるぞ」
「幸いね、ここを出る気ないもの。…私が狂ってるのは、本当じゃない」
くっくっく、と小さく笑う。もうそんな話に興味ない。最近一番気に入ってるルービックキューブを拾うと、掌でかちゃかちゃ弄んでみた。縞模様、渦巻き、鍵十字…模様が千々に入り乱れる。……きれい……
紺野が困った顔をする。これを見ないと、紺野に会った気がしない。だから紺野のこと、どんどん困らせるの。

――あの時の気持ちが初恋だったのか、『兄弟』に対する憧れだったのか…今となってはもう分からない。

あれから程なくして、従兄弟を手にかけて発狂した私の世界で、紺野はただ1人の『身内』になったから。紺野、それ以外は敵。それが、ついこの間までの私の世界観だった。
「この回復ぶりからすれば、もう退院だって出来る」
「退院して、どこに行くの。…あの家に帰るの」
語尾が震えた。…お願い、帰すなんて言わないで。お願い……。
「そのことだ。…流迦ちゃん、親父さんから面会の申請が来ている」
申請の書類が、ベッドサイドにぱさりと置かれた。
「…ふぅん。体裁の悪い娘を座敷牢にでも閉じ込めて、座敷童にでもして家の繁栄を願うのかしらね。廃品利用ね」
あっはっはっは…廃品利用。自分で言った言葉がおかしくて、笑い続けた。さぞ困った顔をしているにちがいない。見ものだわ、と思ってちらりと目をやると、思ってたよりもずっと穏やかな顔をしてた。
「……お前、聞いてくれたな」
「うん?廃品利用計画について?」
「親父さんの話。…叫んだり、気を失ったりせずに聞いてくれたのは、今が初めてだ」
「……嘘」
「面会申請の話をするのは、もう27回目だ。…覚えていないんだな」
「会わないわ」
ぷい、と横を向いて、他のキューブを拾い上げた。あいつは絶対許せない。紺野の手紙を、全部私の目の前で破り捨てたんだから。
「手紙全部返してくれたら、会ってあげる」
「手紙?」
「なんでもない。一生会わないってイミよ」
キューブに飽きて、いっちゃんが忘れていった自転車の雑誌をぱらぱらめくる。ちょっと可愛い自転車を発見。
「紺野〜、これ買って?」
「それも初めてだな」
…なによ、いちいち五月蝿い。
「キューブ以外のもの
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