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至誠一貫
第一部
第二章 〜幽州戦記〜
二十一 〜覇王、見参〜
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げに頷いている。

「と、皆は言っているわよ? これでも、まだ自分を卑下するつもり?」
「これは異な事を。拙者は事実を申したまでにござる」
「なかなか、腹の底を見せないわね。まぁ、いいわ。もう一つ、聞いてもいいかしら?」
「ご随意に」
「そう。今は名もなき義勇軍とは言え、これだけの功を上げた貴方が、何も賞されないという事はないわ。そうね、最低でも県令、私ならばどこかの太守か刺史を任せるわね。それで、そうなったら受けるつもり?」
「はっ。拙者には、このように付き従う者がおりまする。拙者自身、立身栄達を望むものではありませぬが、働きには相応のものを与える、これは上に立つ者の務めかと。そうなれば、手元不如意とは参りますまい」
「なるほどね。あくまでも、麾下に対する為に、という事ね。訊ねてばかりではおかしいわね、貴方から、聞きたい事はある?」
「ならば、一つだけお訊ね申し上げる。曹操殿は、今の漢王朝を、どう思われる?」
「貴様、何のつもりだ!」

 夏侯惇が、声を荒げた。

「春蘭。訊ねられたのは私よ」
「し、しかし! この者は」
「控えなさい。それとも、私の言う事が聞けないのかしら?」
「う……。わ、わかりました」

 夏侯惇程の猛将が、曹操の一言で大人しくなる、か。
 確かに、有無を言わせぬ厳しさは感じたが……ふむ。

「そうね。正直、もう命脈が尽きるのも時間の問題でしょう。宦官と外戚は、互いに自分たちの権力の事しか頭にない。民草の事を顧みる事などないもの、黄巾党のような乱が起きて当然でしょうね」
「では、仮に漢王朝がもはや国を統治する資格なし、となったら。貴殿はどうなさる?」
「土方殿!」

 今度は、夏侯淵が身を乗り出す。

「止めなさい、秋蘭」
「……は」
「なかなか言うわね、貴方。いいわ、遅かれ早かれ、公にする事ですもの」

 そう言うと、曹操は立ち上がった。

「私は、覇道を歩むつもりよ。力なき支配者など、罪でしかない。民を顧みない為政者など、ただの害悪。そうなれば、私はそういう類の者を許すつもりはないし、力なき正義など信じはしない。その為になら戦いは辞さないつもりよ。これでどうかしら?」
「結構でござる。ご無礼仕った」
「本当、無礼な男ね。でも、気に入ったわ」

 曹操は、表情を緩めると、

「貴方が、覇道を妨げるものか、路傍の石になるかは、見させて貰うわ。この戦、期待しているわよ」
「……は」
「では、軍議に入りましょう。韓馥と孔融が来ていたわね? 秋蘭、すぐに招集なさい」
「はっ!」

 この切り換えの早さ、尋常ではない。
 やはり、本物のようだな。
 覇王のお手並み拝見と行くか。
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