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シモン=ボッカネグラ
第二幕その五
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第二幕その五

「娘よ、行くがいい。そして・・・・・・笑顔で私を見てくれ」
 そう言うとまどろみだした。そして椅子に座ったまま眠りに入った。
 ガブリエレは彼が眠ったのを見届けるとゆっくりと部屋の中に入った。そして彼を見た。
「完全に眠っているな」
 彼はシモンを見下ろして言った。シモンは顔を俯け倒れ込む様な姿勢で眠っている。
「今この長年の恨みを晴らす時」
 懐から短刀を取り出した。鞘から抜く。刀身は黒く光っている。
「父上、見ていて下さい」
 身構える。そして一気に振り下ろそうとする。
 だが身体が動かない。急に竦んでしまった。
「どういうことだ・・・・・・」
 ガブリエレは構えを解いた。そして短刀を握る右手を見て呟いた。その右手は震えていた。
「つい先程まで憎しみに燃え上がっていたというのに。一体何故・・・・・・」
 彼はいぶかしんだ。だが気を取り直し再び身構えた。
 その時アメーリアが部屋に入って来た。
「ガブリエレ・・・・・・!」
 彼女は彼を迎えに行くところだったのだ。その近道であったこの部屋を丁度通り掛かったのだ。
「アメーリア・・・・・・」
 彼は短刀を振り上げたままの姿勢で彼女に顔を向けた。バツが悪そうに見る。
「止めて!」
 彼女は彼の身体を抱き止めて言った。
「しかしこの男は僕の・・・・・・」
 彼はそれでも短刀を離そうとしない。だがそれを握る力が序々に弱まっていくのを感じていた。
「テラスで聞いたでしょう、だから・・・・・・」
 アメーリアはそんな彼を必死に止める。
「だが・・・・・・」
 ガブリエレはそれでも短刀を握っている。だが構えを解いた。
 騒ぎにシモンが目覚めた。アメーリアとガブリエレを見る。
「そうか・・・・・・」
 ガブリエレの手にある短刀を見て呟いた。
「刺すなら刺すがいい。私は逃げも隠れもしない」
 彼は椅子に座ったまま毅然として言った。
「言われなくとも」
 彼は再びその手を振り上げようとする。だが出来ない。
「クッ・・・・・・」
 呻く様に言った。何とか振り上げようとするがどうしても出来なかった。
「アメーリア、君に従おう」
 彼は短刀を床に放り捨てた。短刀は音を立てて床に転がった。
「そうか。捨てたか」
 シモンはその短刀を見下ろしながら言った。
「だが一つ聞きたい。どうやって牢屋から出て来た」
「・・・・・・おわかりになると思いますが」
 ガブリエレは顔を顰めて言った。
「私がか!?」
「はい。アメーリアがさらわれた一連の経緯をよくお考えになられれば」
「それよりもそなた自身に聞いた方が早いがな」
 彼は暗に拷問を示唆した。
「お好きなように。ですが僕はこれ以上は決して言いませんよ」
「だろうな。ならば良い
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